「とんでもないところに来ちゃった。私の人生どうなっちゃうんだろう？」

これが、秋元美穂さんが六ヶ所村に移住した日の第一印象です。

仙台市の専門学校を卒業後、10年間美容師として働いた美穂さん。長男の出産と離婚、人生の岐路に立ち、2005年に両親が住む六ヶ所村に身を寄せたのでした。

お父様が人材派遣業、お母様が飲食業を経営しており、両親は長年、自宅のある福島県浪江町と六ヶ所村とを行ったり来たり。そのため幼い頃から時折訪れていたとはいえ、スーパーも飲食店も24時間営業が当たり前の都会から村への移住は、30歳の秋元さんを打ちのめしました。

しかし、失意も長くは続きません。２～３ヶ月も暮らすと、村の生活にすっかりなじんでいる美穂さんがいました。

「私どこでも生きていける！って自信がつきました(笑)」

お母様の店を手伝いながら子育てをし、新しい友人との時間を楽しむ。数年後には、新たなパートナーともめぐりあいました。

「ここで生きていきたい」　

そんな気持ちが膨らんできた頃、ついにあの日がきます。

2011年３月11日。東日本大震災発生に端を発し、浪江町には避難指示が出されました。21,000人の町民は全国に散り散りに。
美穂さんは六ヶ所村で結婚し、両親も留まることを選びました。
「あの日、家族が〝普通〟に暮らしていけるのは全然普通じゃないと気づいたんです。子どもがいて、夫が居て、家があって、ごはんがある。その１つ１つが奇跡だって」
仙台在住時代は最新のファッションに給料を注ぎ込み、アルバイトを掛け持ちしていたという美穂さん。震災が彼女を大きく変えました。
「多くの方が亡くなり、私は生きている。『生かされている』と感じました。だから私は好きなことを頑張りたい。本当に好きなことと考えたら、美容師の仕事しかなかった」
2012年に次男を出産後、美穂さんは復帰に向けて行動を始めます。しかしブランクもあって就職活動は難航。なんとか就職しても、子どもが体調を崩して休みの連絡を入れると顔をしかめられ、肩身の狭い思いをしました。
自分らしく働くには独立しかない。仙台時代の友人にあらためて手ほどきを受け、自宅兼店舗を新築してオープンにこぎつけたのは、2015年８月のことです。

ブルーグレーの立体的な看板が目印の『Daisy Hair MIHO AKIMOTO』。入口で靴を脱ぎ、白が基調の明るい店内に入ると、絵本やおもちゃが並ぶキッズコーナーが目につきます。
「うちは子連れ大歓迎！　子どもはどこでも寝ころんじゃうから、店内はスリッパ履きにしました。お母さんがカットしているとき、お子さんは横にレジャーシートを敷いてご飯食べてる、なんてこともありますよ」
美穂さん自身、幼い子どもを抱えて思うようにヘアサロンに行けなかった経験があります。だから「子どもと一緒に来られて、お母さんがホッと一息つける」空間を目指しました。
周辺は閑静な住宅地。大きく開いた窓からは緑が目に入り、その先に山と湖沼地帯が広がります。聴こえてくるのは鳥の声。
移住した頃は大嫌いだったすべてに、今では安らぎを感じています。ご近所は、大人も子どもも顔見知り。自然の中で安心して遊ぶ子どもたちを見ると、「ここに来て良かった」とあらためて思います。
「昔の同僚に会うと、『優しくなったね』って言われます。昔の私は同僚も友人もライバルと思っていたから、怖かったのかも(笑)。でも子どもが生まれて、ここに来て、震災があって…勝つ、負けるなんてどうでもいいなって。今は来て下さるお客さんに寄り添って、色んな話を聞いて、笑って。１日１日を大事に過ごしたい」