人、街、景色が混ざり合い、鮮やかな色になる。
暮らしのインタビュー

COLORFUL INTERVIEW

七戸町

立崎 祐章さん

Profile

【2013年移住・Uターン

青森県七戸町出身・農業/農家民泊経営

オール100円の新鮮野菜直売店『りんりん』

七戸町野々上、農道沿いにちょこんと建つ小屋には『新鮮野菜直売店りんりん』と手書きされたのれんがはためいていました。

何の変哲もない農道にはほかに目印もなく、交通量が多い国道や住宅街からも離れていて、決して立地条件が良いとは言えません。にもかかわらず、約2時間の取材中に直売所の前には何度か車が停まり、野菜は次々と売れていきます。

棚には白く輝くナス、紫や黄緑のブロッコリー、鮮やかな緑のパクチーにケール、ズッキーニ、サボイキャベツ、ルビーのように赤いサンマルツァーノトマトと、スーパーでは見かけないものばかり。一坪ほどの小屋に、多いときで25種類もの色とりどりの野菜が揃います。
すべて1袋100円なので、野菜の袋を取った数だけ、箱に100円玉を入れる。会計がシンプルなのも魅力です。

直売所の主は立崎祐章さん。中国人の妻・唐琳(トウリン)さんを連れて町にUターンしたのは2013年のことです。
2人は年間で約40種類もの野菜を栽培し、直売所のほか『道の駅しちのへ』や『ファーマーズマルシェhitotsubu(ヒトツブ)』(おいらせ町)で販売。

農家民泊も受け入れています。
「台湾からのお客さんが一番多くて、香港からも増えています。最近はみんなレンタカーを借りて、自分で運転して来る。30代のキャリアウーマンが多いかな。あとは県内の子どもたちが夏休みの農業体験に訪れます」と立崎さん。中国に在住経験がある夫妻のもとには、新鮮な野菜とアットホームなもてなしに惹かれて、多くの観光客が集まります。

南国の大都市から北国の農村へ。

立崎さんは高校卒業後、都内の大学で英文学を専攻。日本語教師の資格を取得し、卒業後は中国・広東省の珠海市で教師の職に就きました。リンさんと出会ったのもその頃です。

そして3年後の2008年、2人は隣接するマカオに移住。立崎さんは観光ガイドに転身し、多いときは50人ほどのツアー客を相手にするなど、多忙な日々を送りました。
「炎天下でお客さんをアテンドして、夜はカジノに案内。体力の続く限り楽しみました。とはいえ、30歳を前にしてそろそろ静かな暮らしを送ろうかなあと考えるようになりました」

「日本に行ってみたい」というリンさんの希望もあり、2013年、5年半のマカオライフにピリオドを打つことを決めた立崎さん。しかし帰国するだけなら、学生時代になじんだ東京をはじめ、就職口の多い大都市圏に移住する選択肢もあったはずでは?
「マカオは人口密度世界一で、4月~12月まで30度を超える暑さ。東京に住むと、今までとあまり変わらないと思ったんです。それなら七戸に帰ろう、帰るなら農業をやろうと考えました」

立崎さんの実家は兼業農家。父は『農家民宿たちざき』を経営し、町と協力してグリーン・ツーリズムを推し進めていました。さまざまな人を受け入れながら地元で働く両親の姿も、Uターンを後押しする一因になったといいます。

大変さも受け入れて、楽しめるときは「一緒に、思い切り!」

農業・農家民泊に加えて中国語の能力を生かし、観光関連の翻訳や通訳なども手がける立崎さん・リンさん夫妻。
立崎さんは、町が2017年に地元住民と移住者との交流を深めることを目的に立ち上げた団体『しちのへ移住サポーターの会』にも参加しています。移住について、自身の経験をふまえて次のように話してくれました。

「いざ移住となると仕事、お金、家…現実的な問題っていっぱいあって、でもその大半は、個人で乗り越えるものだと思う。僕ができるのは、生活の部分にプラスαのお楽しみの部分をどうするかのサポート。移住者も地元の人も同じで、それぞれ苦労がある。楽しめるときは一緒に楽しもう、どうしたら苦労の部分を打ち消せるぐらいに楽しめるかっていうのが大事なんじゃないかなと、最近思います」

〝移住者〟〝地元民〟に関係なく、互いに自分の足でしっかりと立ち、関係を築いていく。その心構えが持てれば、地域でいきいきと暮らすことができそうです。
一方で、町にはそれぞれカラーがあります。立崎さんが考える、七戸町の魅力は?

「黒土の豊かな土壌で、寒暖の差があり暑い時期が短い。台風もあまり来ない。七戸はあらゆる種類の野菜作りにベストな土地だと個人的に思っています。うちは栽培方法にこだわりってないんですが、それはふつうに作る方がむしろ七戸の環境のメリットを生かせるからです」
 
農業の〝先生〟にも困らないといいます。
「野々上地区は30~40代のUターン若手農家が多いし、祭りの山車作りとか盆踊りとか、地域の行事も多いので、そういうときに先輩に色々聞けますね。特に若手農家の仲間とは、家族ぐるみで温泉に行くこともあって。仲良くしてます」

立崎さん自身もときには〝先生〟に。忙しい農作業の合間を縫って祭り囃子の指導をしたり、国際交流事業の一環として中国語を教えたりと、地域の子どもたちに知識や技術を伝えています。
〝農〟と〝つながり〟が七戸町のキーワードであり、町の魅力を作る原動力となっています。

移住者DATA.

一日のスケジュールを教えてください。

収穫期(夏~秋)
4:00前・起床
 ▼
仕事(起きてすぐ仕事をスタート)
 ▼
23:00・就寝

オフ期間(12~2月)
9:00・起床
 ▼
絵をかいて、楽器を弾いて、本を読む。
 ▼
3:00頃・就寝

休日の過ごし方は?

雨が降った日は仕事ができないので、急いで出かけます。リンさんが温泉好きなので、行き先はだいたい温泉。蔦温泉、谷地温泉までは車で40分くらい。さっと行けて、観光シーズンを外せば人も少ないから、貸切状態で入れるのがいい。

七戸町の便利なこと・不便なことは?

日本三大秘湯の一つ(十和田市の谷地温泉)に気軽に行けるってすごいと思う。買い物はネット通販があるし、東京で観たい美術展があれば夜行バスか新幹線で行って日帰りできる。困るのは病院ぐらいかな。内科はあるけど婦人科系はないので、近隣の市まで車で行く、とか。

七戸町のお気に入りスポットは?

金鶏山。こんもりした丘の上に見町(みるまち)観音堂があって、管理も地元の人がしている静かな場所です。この間行ったら、なんと参道にカモシカがいて驚きました! ここだけじゃなく、町内の神社にはよく行くんですよ。特に人がいない静かなときを狙って(笑)。

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