人、街、景色が混ざり合い、鮮やかな色になる。
暮らしのインタビュー

COLORFUL INTERVIEW

横浜町

臼木 勇さん

Profile


【2017年移住・Iターン】

1953年生まれ。

埼玉県川口市出身/カフェ経営

(カフェBUNBUN)


暖簾をくぐれば別世界。古民家を自ら改装したアメリカンダイナー風カフェ

 陸奥湾に沿って伸びる国道279号、別名『はまなすライン』。潮風を受けながらドライブしていると、ふいに原色の看板が目に飛び込んできます。サーフボードを欄間に貼り付けた看板に書かれた文字は『BUN BUN』。暖簾をくぐればそこには、和風の外観からは想像もつかない空間が広がります。


 天井は鮮やかな赤。大胆な色使いが外国映画のダイナーを思わせ、テーブルの上にはビーチパラソルが広がり海の家風。これもまた真っ赤なソファの足元に置かれたスリッパを履こうとすると、なんと床に貼り付けられている。豪奢な打掛の下には、ギターや星条旗柄のクッションが組み合わせられており…と、遊び心を感じる空間。常識にとらわれない子どもが作った〝秘密基地〟のような印象を受けます。

 

人口約4,500人ののどかな町に、古民家を改装したカフェ『BUN BUN(ブンブン)』がオープンしたのは2018年。オーナーは東京都日野市から移住した臼木勇さんです。

妻の由美子さんが横浜町出身。由美子さんの両親が亡くなり、空き家になっていた実家に移り住みました。とはいえ、埼玉県川口市出身の勇さん。60歳を越えて住み慣れた関東を離れるのは、勇気が要ったのでは? 

「子どもたち連れてこっちに来るたび、空気がきれいで、波の音が聞こえて、食べ物がおいしくて、いいなぁと思って、ただそれだけ」と、ごくあっさりと移住の理由を話します。

「この人はどこでも生きていけるから、全然心配してなかった」と、隣で由美子さんも笑いました。


『~しなきゃいけない』とは思わない。週末限定カフェができるまで

由美子さんの実家は海沿いの『浜田』集落の中心部にあります。家は広く、現在、店として使っている部分は二間続きの和室でした。それを天井以外はほぼ原形をとどめないほどにリフォームしたのは勇さんです。大工仕事も塗装も玄人はだしの腕前。そのわけは職歴にありました。


昭和28年生まれの勇さんの社会人生活は、自衛隊からスタートしました。横須賀基地に所属し潜水艦に数年間乗った後、自ら塗装業を開業。その後、30代初めに喫茶店の雇われマスターをしていた頃に店でアルバイトしていた由美子さんと結婚。さらにトレーラーの運転手を経てハウスクリーニング事業を興し、約20年継続するも、移住により閉店。

そして今は、週の前半は六ヶ所村の施設で厨房に入り、金・土・日曜日は喫茶店を営む生活です。由美子さんも同じように週の前半は別の仕事をし、一緒に移住した次女も、店を手伝いながらむつ市に通勤しています。

「『~しなきゃいけない』とかって、狭く考えると苦しくなるじゃない? 最初オープンした頃は毎日店を空けなきゃいけないと思ってたけど、人が少ないからそんな毎日空ける必要もないねって。お客さんも集中して来てくれるようになりました」と由美子さん。


ランチタイムには、車で10分ほどの町役場職員やむつ市内に勤務する会社員、観光客などが訪れます。以前も喫茶店をしていた夫妻のこと、料理はお手のものです。ピザやパスタ、焼きカレーなどのメニューは、おいしくてボリュームもあると評判です。



「不便なくらいがいいんじゃない?」現状を遊び不足を楽しむのがコツ

横浜町の神楽は、青森県の無形民俗文化財に指定されている伝統芸能。9月中旬の八幡神社例大祭では町内に13ある神楽会が通りを練り歩き、迫力の舞を披露するのが恒例です。勇さんは移住してすぐに浜田集落の神楽会に入り、仕事の合間を縫って練習に参加しています。練習を頑張った後は飲み会。土曜日は夜9時まで営業するBUNBUNは、今やすっかり神楽会メンバー憩いの場になっているとか。

「みんなと色んな話をするのが楽しいんだ。店をやって何がよかったって、色んな人と話せることだよね」と勇さん。


地域からの評判は「外観が外観だから、最初は『なんだこれは⁉』って思われてたみたい。でも、古民家でおとなしく古民家風の喫茶店やっても面白くないじゃない。周り古民家だらけなんだから(笑)」


しかし今では集落で重宝される存在になっています。横浜町には飲食店が少ない上に公共交通機関が少なく、車がないと外食はおろか外出さえ難しいのが実情ですが、勇さんたちはそんなご近所さんに、注文に応じてピザを届けます。

「代わりにみんなが野菜や果物を持ってきてくれるんです。きゅうり、なす、トマト、すいかやメロンまで! この間はこんな大きいタイをもらって、生まれて初めて捌いたよ」

タイをもらったら、餃子を作って届ける。もらったじゃがいもをポテトサラダにしてお返しをする。店とお客というだけの関係を越えた暖かい交流が続いています。


「こっち来たらのんびりできると思ったらとんでもない話で、やることいっぱい。やりたいことがいっぱいある」

瞳を輝かせながら勇さんは語ります。目下の目標は、レンガでコンロを作り裏庭をバーベキューガーデンにすること。


困ったことはないかと尋ねると「便利さを追い求めたらきりがない。不便なくらいがいいんじゃない? 不便だと自分で考えたり工夫したりするから」

どこまでもポジティブな勇さんと話していると、価値観が揺らぐ瞬間があります。早く、便利に、簡単に。現代社会の中で〝良い〟とされてきたことが本当に〝良い〟のか?と。


子育てを卒業した夫婦の移住は、自分に正直に、軽やかに。自分の幸せを決めるのは自分なのだと、教わった気がしました。 


移住者DATA.

一日のスケジュールを教えてください。

5:00・起床
 
11:00BUNBUN・開店
 
仕事
 
17:00BUNBUN・閉店
 
18:00・夕食

 ▼

23:00・就寝

大人5人で一緒に住んでて生活がバラバラなんだけど、夕食はみんなで食べることが多いかな。夕方6時頃夕食を食べて、9時にはそれぞれ部屋に入って。私はその後ドラマを観るのが楽しみです♡(由美子さん)

※BUNBUN営業時間:

【金曜日】11時~17時、【土曜日】11時~21時、【日曜日】11時~17時

休日の過ごし方は?

買い出しに仕込み、毎日何かしらあって、休みは特にないですね。でもまぁ、どこかに行きたいときはお店を休んで行けばいいから。(勇さん)

前に十和田の秋まつりと三沢の航空祭に行ったときは楽しかった!(由美子さん)

横浜町の便利なこと・不便なことは?

不便がいいんじゃない? 不便だと自分で考えたり工夫したりするから。(勇さん)

その時々で不便と思うことはあるんだけど、すぐに忘れちゃう。結局たいして困ってないってことかな(笑)。(由美子さん)


横浜町のお気に入りスポットは?

家から見える景色が最高! 陸奥湾を挟んで釜臥山が見えるんだけど、これが四季折々にいい眺めでね。特に冬の乾燥している時期は空気が澄み渡ってよく見える。雪で山が白くて、海と空が真っ青でね。本当にきれいよ。(勇さん)


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