市中心部から車で約20分ほど。十和田市馬事公苑「駒っこランド」は公園や牧場、食事処なども揃う、親子連れに人気のお出かけスポットです。
そんな駒っこランドで6~11月の第4日曜日、小さな市(いち)が開かれています。
その名も「しずくの恵マルシェ」。十和田市とわだ産品販売戦略課が平成28年に立ち上げました。地場産品、つまり”メイドイン十和田”にこだわっているというこのマルシェ、どんなイベントなのでしょうか? 今年最初の開催となった6月24日の様子をレポートします。
上明戸農園 代表
上明戸好一
1982年生まれ、青森県十和田市出身。三本木農業高校卒業後、仙台の音楽専門学校へ進学。農業と無縁の生活を送るも28歳で帰郷、就農。農園内のりんご全てを「葉取らずりんご」(果実に栄養を送る葉っぱを残して栽培し、糖度を上げたりんご)に切り替えるなど、おいしい農産物、新しい農業のかたちを追求中。
https://www.facebook.com/Kamiakito/
のろけん農園 代表
野呂健太
1986年生まれ、青森県青森市出身。高校卒業後、青森県営農大学校(七戸町)で学び、祖父母が営んでいたりんご農園を継ぐ。2017年十和田市へ移住するも、青森市でも農業を継続中。20歳から鍛えたりんご剪定の技術は確か。
本格的な梅雨前の、少々蒸し暑い日。とはいえこの日も駒っこランドは大盛況。十和田市内外から訪れた子どもたちの歓声が響く中、ログハウス風の「交流館」前には、青空と芝生の緑に映える真っ白なテントが並んでいました。
やわらかな水色で描かれた雫と水玉模様。よく見ると、のぼり、テーブルクロス、商品木箱なども同じモチーフで統一されているのに気づきます。
アートディレクションを手がけたのは、十和田市在住の編集・デザインユニット「字と図」の吉田進さん。
※吉田進さん日々コレインタビュー http://towada-iju.com/interview/009.php
十和田湖や奥入瀬渓流の清らかな水のイメージをデザイン化することで、マルシェ全体のイメージを作りあげました。
※「しずくの恵マルシェ」について http://www.city.towada.lg.jp/docs/2016052500021/
「十和田市でとれる野菜や果物はまさに自然の“恵み”ですが、意外と地元の人がその良さを知らないんですよ。県外に売り込むのも大切ですけど、まずは地元の人に知ってもらいたい」
そう話すのは、十和田市農林部とわだ産品販売戦略課の清野拓人さんです。市では若手農家、農産物加工業者、飲食店など、十和田市地場産品に携わる人の販路拡大と商品おひろめの場としてマルシェをスタートさせました。
出店料はなんと無料。お揃いのテントやテーブルは市からの貸し出し。これなら大きな什器を揃える必要もなく、気軽に参加できそうです。
市内に住所か拠点のある事業者で、商品が「十和田市内で生産した農畜水産物」、「市内で生産した農畜水産物を使い、市内で加工した食品」、「地域特有の原材料や技術を用い、市内で制作された工芸品」のいずれかに当てはまれば申し込みができます。
1年目は道の駅とわだ「とわだぴあ」・市民交流プラザ「トワーレ」、2年目は市民交流プラザ「トワーレ」、そして今年は駒っこランドで開催。遊びに来るファミリー層に立ち寄ってもらうため、営業時間を今までの9~13時から10~15時に変更したそう。
その結果、5月に開いたプレイベントでは来場者、売り上げともに大きく伸びました。
「今の出店者は7組ですが、売れると分かればもっと増えるはず。7月からは夏野菜、ブルーベリーなどの果物も出てきますし、売り上げアップに期待したいですね」と手応えを感じている清野さん。ちなみにおすすめの商品は「やっぱり今の時期は生にんにくですね。出店している農家の方に聞いたら、生にんにくをすりおろして納豆に混ぜるのが一番おいしい食べ方だそうで。僕もまだやってないんですけど(笑)、今年こそ試します」とのことでした。
続いて出店者のもとへ。
「マルシェの中心的存在です!」と清野さんにご紹介いただいたのは、上明戸農園オーナーの上明戸好一(かみあきとよしかず)さんです。十和田市内の米・果物農家の1人息子ですが、「『家を継ぐんだぞ』って言われ続けて、農業が嫌いになった(笑)」。市内の農業高校に進んだものの、卒業後は仙台へ。
今思うと、いつかは戻って農業をやるんだって、心のどこかで思ってた。だからその時が来るまでは好きなことをやろうと。
自動車関連などいくつかの仕事を経験した後、28歳で十和田にUターンしました。それからは農業一直線。10代続く家名を冠して屋号を「上明戸農園」と決め、米・果物に加えて野菜の栽培も手がけるように。プライベート用に少しだけ作っていたりんごやブルーベリーのジュースはレシピを練り直し、オリジナルラベルを作って商品化しました。
自慢のりんごジュースと上明戸さん
「ふじ」「紅玉」など3種のりんごをブレンドしたジュースは甘みと酸味のバランスがよく、後味すっきり。道の駅や市内のスーパーでも販売していますが、農家直売のマルシェではお得に手に入ります。
『こういう野菜ないかな』とか『もっと酸味がほしい』とか、お客さんの生の声を聞けるのがマルシェのいいところ。
ブルーベリー畑を観光農園として開放し、常に“最終的なお客さん”に届くまでを意識しているという上明戸さん。マルシェ出店は昨年に続き2年目で、ジュースのほか、自家栽培のポップコーン種を使ったポップコーンを販売するなど加工品作りにも積極的です。
生産者が加工・販売までを手がける若手農家にとって、マルシェはニーズを掴み、それをもとに試行錯誤できるチャレンジの場になっているようです。
マルシェでの目標は出店者とお客さんを増やすこと。農業仲間をはじめ、上明戸さんのスカウトで参加した出店者は多いのです。
隣のテントできゅうりとりんごチップスを販売していた、“のろけん”こと野呂健太さんもその1人。
実は野呂さん、奥様のご実家がある十和田市に住み始めてまだ1年ほどです。
青森市浪岡地区のりんご農家に生まれ、高校卒業後、七戸町にある営農大学校で農業を習得。20歳からりんご、さくらんぼ、ミニトマトなどを生産してきたバリバリの農家です。
今も十和田市でミニトマトなどを生産しているほか、浪岡でもりんごやさくらんぼを手がけていて、移住についても「住まいがこっちってだけです(笑)」と気負いゼロ。りんご栽培の研修会で出会った上明戸さんに誘われ、移住直後からマルシェに参加しています。
ふだんは畑で作業をしてるから、なかなか異業種の人と知り合う機会がない。でもここに来てるといろんな人と会えるんですよね。去年は出店者の中から選んでいただいて、都内のイベントにも参加しました。十和田市出身のシェフのお店でどういう野菜が欲しいか聞けたり、勉強になりましたね。加工品を作ると市のほうでレストランに送って、シェフに試食してもらえるし。マルシェやってよかったですよ、本当。
話しているそばからさっそくお客さんが登場。きゅうりを買ったおばあちゃんの「毎月やってるの?」の声に、「これからどんどん野菜が増えますんで、よろしくお願いします!」と元気よく返す野呂さんです。
生産者×生産者、生産者×地域のお客さん、生産者×飲食店。行政と生産者がつながって始まった小さなマルシェは、新たなつながりを生み出しながら少しずつ成長しています。
今回の取材場所
十和田市馬事公苑 駒っこランド