「remote=遠隔・遠い」、「work=働く」をあわせた「リモートワーク」や、「work=働く」と「vacation=休暇」をあわせた「ワーケーション」。多様な働き方を表すことばを目にする機会が増えた2020年。
それよりも一足早くリモートワークを実現させていた人が、ここ十和田にいます。
ふるさとに戻って約1年半。いま感じていることを聞きました。
馬場瑞穂(ばばみずほ)
1985年十和田市生まれ。大学進学を機に上京し、2008年都内の不動産管理会社に就職。2019年7月にUターンし同社で在宅勤務を開始。3か月に1回程度上京し、勤務している。家族は十和田市出身の夫、愛犬はるちゃん(キャバリアの♀)。
ご夫婦とも十和田市出身だそうですね。Uターンのきっかけは?
直接のきっかけは、夫の祖母が亡くなったことですね。直前の数年間、義父母が介護していて。いざ亡くなったとき感じたのが、「そばにいないとできないことがある」ということでした。
十和田の家族に何かあったときは、そばにいてあげたい。それなら若いうちに帰ったほうがいいかな、と。そのときちょうど2人とも34歳だったんですよ。転職するなら34歳は一つのボーダーラインだと思いました。
たしかに拠点を変えるとなると、仕事の問題は大きい…。現在は在宅勤務されていますが、最初からその予定で?
いえ、ダメもとでした(笑)。
帰ることを先に決めちゃったから、辞めることになっても仕方ないけど、今の会社も好きだから…と、ダメもとで上司に相談したんです。そしたら数か月間の検証を経て許可が出ました。
なるほど。まず仕事の問題はクリア。あとは住まい探しですね。
十和田市の移住お試し滞在支援を利用して探しました。うちの場合は犬を飼っているので、ペット可の物件となると候補がかなり絞られましたね。
十和田市の移住支援制度のひとつですね。ほかに利用したものはありますか?
引っ越し費用の補助金が出て、助かりました!
コロナ後の今でこそリモートワークが浸透してきていますが、Uターン前、2019年当時の状況は?
社内にすでにリモートで仕事をしている人が何人かいましたが、あくまでも通勤が難しい場合の例外的な処置という位置づけでした。
ただ、会社としてリモート環境を整え始めていた時期でもあったので、在宅勤務トライアルの社員として許可をもらえました。
リモートワーク実現まで検証に数か月かかったということですが、どんな風に進めたんですか?
まず「青森って電波つながるの?」というところから始まりました(笑)。みんなすごい山奥だと思っていたみたいで、グーグルマップで「この辺です」と見せたりして。
それから仕事内容の検証ですね。紙で出力する業務はできないので、ペーパーレスにできないか工夫したり、逆にどの業務ならリモートでできるか洗い出したり。
その結果、業務内容に変化は?
ほぼないですね。届いた請求書を経理に回す、というような、紙やハンコを使用した業務は事務所内にいないとできないので、その分、別の仕事の割合が増えたくらいで。
リモートワークを実際に今までやってみて、いかがですか?
快適ですよ。たまに電波が少し悪いとき以外は全然問題ありません!
個人的な感覚ですが、市街地であれば都内のリモートワーカーとあまり変わらないように思います。
打ち合わせや会議はテレビ会議システムで?
そうですね。社内とも社外の方とも。個人的に話したいときは会社のシステム上で相手の予定を確認して、大丈夫そうならチャットで「今いいですか?」って話しかけてからカメラをオンにして話すとか、そんな感じです。
リモートワークのメリット、デメリットってどういうところでしょうか?
家にはる(愛犬)が一緒にいて仕事できるので、そこはよかったです。以前は留守番の時間が長くて寂しい思いをさせていたかなって。
ウェブ会議中に膝に乗ってくるっていうのは、ペットを飼っている方にはあるあるだと思うんですけど(笑)。うちは昼寝のいびきの音がうるさくて「何の音?」って聞かれることもあります。いびきがおじさんみたいなんですよ(笑)。
通勤時間がなくなったのは良し悪しですね。帰りの電車で好きな海外ドラマを観て、45分見終わった頃最寄り駅に着いて、そこから〝家の私〟に切り替える、みたいなオンとオフの切り替えの時間がなくなってしまったなと。
最初の頃は「息つく時間がなくなったな」と感じたこともありました。
あとは社内のコミュニケーション。会社の中にいると、すれ違った人と雑談できるんですが、今は本当に仕事の話しか喋らないことがあるので、そこは寂しいかな。
コロナ流行前から在宅勤務していたわけですが、今回のコロナの流行で影響はありましたか?
私自身は何にも変わらなかったですが…。緊急事態宣言が出た頃は、環境が整わなくて在宅勤務ができない人が出てきてしまったのでフォローすることが多くて、役に立てて良かったなと思いました。
私の部署はこの春以降リモートワークが増えて、東京の同僚もシフト体制で出社することになったんですよ。
Uターン後の生活の変化は?
一番良かったなと思うのが、食べ物が新鮮なこと。以前は新鮮じゃないな…と思っても仕方なく買っていたのが、今は魚でも野菜でも新鮮なものが手に入る。しかも野菜は実家から家庭菜園で穫れたものをよくもらうので、朝穫れの旬のもの。最高ですよね。
いいですね!
野菜をほぼ買わないのと、外食が減ったのとで、節約できるようにもなりました。通勤がない分就寝時間も早くなったし、健康的なライフスタイルになったと思います。
家事に関しても、今まで時間がなくて手が回らなかったこともできるようになって。丁寧に暮らせるようになったかな。
家族も思いのほか喜んでくれてますね。夫も私も実家が近いし、きょうだい家族も市内にいるので、夏の間はよく集まってバーベキューしてました。
あとは車の運転だったり、灯油を買わなくちゃいけないとか、お店が閉まるのが早いとかもあるけど(笑)。
よく行く場所やお気に入りの場所はありますか?
温泉。近所の銭湯のお湯が温泉なんですよ。「今日は大きいお風呂に入りたい」って思ったら即車出す、みたいな(笑)。
平日はここ、週末はこっち、みたいに使い分けて、ほぼ毎週行ってます。東京だと入浴料がたしか400円台後半くらいだと思いますけど、十和田は300円台のところがほとんどですし。
愛犬との暮らしということに関しては、変化は?
都内にいたときもけっこう自然のあるところで、意外と変化ってないんですが…。官庁街通りを散歩するのは好きですね。桜並木で季節の変化を感じながら歩くのが好き。トリミングサロンは義母に紹介してもらいました。
もし「十和田に住みながらリモートワークで働きたい」という人がいるとしたら、どんなアドバイスをしますか?
私のように都内で働いていて、今の会社の仕事を続けたいのだったら、「移住するので辞めます」よりも、「続けたいんですが、こういうやり方でできませんか?」って意思表示や提案をしてみてほしいです。
ペーパーレス化とかのリモートワーク実現に向けた仕事内容の検証は会社全体で進めることなので1人ではできないですが、だからこそ、言ってみる。
私の場合は在宅勤務が条件だけど、そうでない人ならトワーレ(市民交流プラザトワーレ)とか、十和田市民図書館とか、十和田市現代美術館とか。無料でWi-Fiが使えるすてきなスポットが充実しているのは十和田のいいところじゃないかな。
それから以前、友人夫婦が東京から遊びに来たとき「思ったよりも山の中じゃないね」って言われたんですよ(笑)。確かに自然は近くにあるけど、買い物にしても飲食店にしても温泉にしても、きちんと生活に必要な機能もあるのに、それを知らない人が多いんですよね。
心地よさを感じるポイントは人それぞれだと思いますが、まずは一度来て、暮らしやすさを感じてほしいです。
最後に「十和田がもっとこうなったらいいな」というポイントは?
ウェブ上に街のコミュニティの情報がもっとほしいかな。
リモートワークだと外に出ることがなくなるので、コミュニティから離れがち。まったくこの街のことを知らないで入って来たら、まずウェブの情報にアクセスするじゃないですか。私も習い事をしたいんですが、ネットで調べても最新の情報がなかなかないのがちょっとした悩みです。
なるほど。リアルな口コミのネットワークが強いのは地方の良さでもありますが、ウェブに情報があればより人がつながりやすくなりますよね。
本日はありがとうございました!
今回の取材場所
十和田市役所(館内スペース)