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“顔が見える”医療で地域を支えるナースのJターン

 都市部から、生まれ育った故郷に戻るのが「Uターン」、故郷ではない土地に移り住むのが「Iターン」。まもなく看護師10年目を迎える前田詩織さんが選択したのは、故郷から近い別の地域に移住する「Jターン」でした。コロナ禍の決断の理由、十和田暮らしの今をお聞きします。

  • 十和田市立中央病院
    前田詩織(まえだしおり)

    1990年生まれ、横浜町出身。2012年、神奈川県立保健福祉大学看護学科卒業。同年から8年間、看護師として虎の門病院(港区)に勤務。2021年4月、十和田市に移住し十和田市立中央病院看護局に入局。

家族と過ごせる残り時間「5カ月」の衝撃

横浜町のご出身で、十和田市へはいわゆるJターンですが、きっかけは何だったんでしょう?

もともと、いつか地元に戻ろうとは思っていたんですけど、タイミングを失いつつもあって。そんな中でコロナが始まり、それまでは1年に1回は帰省してたんですけど全然帰れなくなって。いいタイミングだし、戻ろうかなということで、こちらに来ました。

戻りたかった理由を聞いてもいいですか? お仕事の側面から考えると、高度な医療を行う都市部の病院は看護師さんにとって魅力的かな、なんて気もして。

前の職場の虎の門病院は1日に2,000人以上の外来患者さんがいらっしゃるような総合病院で、もちろん、すごく勉強になりました。スタッフ教育にも力を入れていたので、すごく糧になりましたし。
でも、関東圏で自分が年老いて生活している姿が想像できなくて。やっぱりこっちで根を張って生活している方が、想像がつきやすかった。
私、すごく家族が好きなんですよ(笑)。父と母と弟がいるんですけど、ある時、計算してみたんですね。私が家族と過ごせる時間を。

年に1回帰省して、このぐらい滞在したとして…と計算したわけですね。

そしたら5カ月とかで。短すぎるなと思って。絶対に帰ろうって、その時思いました。

結果的に十和田市にお勤め先とお住まいを決めたわけですが、どうやって決めたんですか?

実は母も看護師だった。今は青森市内で看護関係の仕事をしています。そこで「なるべく実家に近いところがいいんだけど」って転職先について相談したら「十和田か八戸がいいんじゃない」と言われて。見学に行って今の職場に決めました。

決め手は何でしたか?

(十和田市立中央病院は)規模感がちょうどよかったというか。八戸市民病院は救急医療に力を入れていて、それはそれで魅力的だったんですけど、私にとっては以前の職場とあまり環境が変わらない気がしたんです。十和田市立中央病院ですごく印象的だったのが、皆さん、他の部署の人の顔と名前を一致して分かっているんですよ。私、以前の職場では他の部署のことを全然分かっていなくて。

前職ではスタッフさんは何人ぐらいいらしたんですか?

看護師だけで1,000人規模、同期だけでも200人ぐらいいたので、同期でも顔と名前の一致が難しい…みたいなこともあって。だから、お互いに“顔の見える関係”ってすごくいいなと思って。連携がしやすいのは患者さんのためにもいいだろうなと。今は同期が私を入れて9名、病院全体だと、看護師が300~400人ぐらいでしょうか。

十和田に来たのはいつからですか?

2021年の4月です。東京から来た感覚で言うと、こちらでは、そのときはコロナの感染拡大が落ち着いていた印象でしたね。その年の夏から秋に第5波がきて、秋から冬は比較的に落ち着いて、年明け前後から第6波で、という感じで。

来た当初、不安はありませんでしたか?

仕事面でありました。新しい業務に慣れることができるか、人間関係は大丈夫か、とか。来てみたら全然大丈夫でしたけど。

職場の雰囲気はいかがでしたか?

最初に感じた通りアットホームです。あと、サバサバした雰囲気がいいなと思いますね。外科病棟全体で30名弱くらいの看護師がいて、3チームに分かれて仕事しています。若手も同年代もいますし、上の世代の先輩が多いかな? コロナ禍が続いて外では会えないけど、休憩時間には色々話します。

方言飛び交う病棟で実感する「ああ帰ってきたな」

現在、具体的にはどんなお仕事を?

外科病棟を担当しています。たまに耳鼻科や緩和医療も。入院患者さんがいらっしゃるので、ドクターの指示に従って各種の検査とか、注射や点滴の管理とか。必要に応じて食事や入浴、排泄の補助、清拭などもして、患者さんの様子を確認します。
週休2日なので、それ以外の5日間で日勤、準夜勤、深夜勤を組み合わせて勤務って感じになります。
新型コロナウイルス感染症に関しては別にチームを組んで、スタッフが月替わりで担当しています。私はまだ担当したことはないですが。

以前と比べて変わったところはありますか?

う~ん…どっちも忙しいんですけど、忙しさの種類が違うというか。業務の内容が違ったりするので。
前の職場では、CTや内視鏡の検査の時、病室からお連れした先の検査室にも看護師が常駐していたので、送っていくだけだったんです。今は検査室に看護師がいないので、一緒に入ったりとか。業務の種類が増えた感じです。検査の時間も含めると、患者さんと過ごす時間が長くなっているかもしれないですね。

ちなみに、前の職場は「すごく勉強になった」とおっしゃっていましたが、どんなことを学ばれたかってお聞きしてもいいですか。

「プライマリーナーシング」といって、入院から退院まで1人の患者さんを1人の看護師が受け持って、その方に合わせて看護計画を作り、実行していく方式があるんですね。看護の方向性を決めるのに大切なのが、患者さんの価値観を理解して計画に反映させること。お一人お一人の個性を捉えていかなくてはいけないんですけど、私はそのプライマリーナーシングの入門コースを受講しました。仕事をしながらで大変だったんですけど、すごくいい学びになりました。

なるほど。一口に患者さんと言っても、一人一人違ったバックグラウンドがあるわけですね。
前田さんはもうすぐナース10年目を迎えられますが、現時点で感じているお仕事のやりがいや看護師というお仕事について思うことがあれば、教えてください。

やりがいを感じるのは、やっぱり患者さんが元気になったときや、治って笑顔で退院されるとき。そういう姿を見られるのはすごく嬉しいです。亡くなっていくような方でも、悔いの残らないように生きて、ご家族から「この病院でよかったです」って言ってもらえた時とか。看護師をしててよかったなと思う部分ですね。

看護師って、患者さんのことを一番理解しているべき存在じゃないかな。患者さんがどういう思いでいて、どういう希望があって、というのを、ドクターやほかの職種のスタッフに伝えて、みんなで同じ方向を向いて進んでいけたらいいなっていう風に思います。

医療の専門職であると同時に患者さんの理解者。患者さんと医療チームの間に立つようなイメージですね。これから目指すところはありますか?

業務に慣れるのに精いっぱいだったのが、だんだん慣れてきたので、これからはより細やかに患者さんに目を向けられるようになっていきたいですね。
個人的な目標としては特定の分野に特化して認定を受ける「認定看護師」という制度があるんですけど、その認定を取りたいなと思っています。私が興味を持っているのは「摂食嚥下(せっしょくえんげ)」という分野。食べたり飲み込んだりする力が弱くなった患者さんに、少しでも口から食べられるように、栄養状態が改善できるようにサポートしていくものです。
地方だと特に、口から食べる力が弱ったら胃に穴を開けて管を通すことが多くなりがちなんですけど、それだと家族の負担が大きいし、家族の手に負えなくなると施設に行かざるを得なくなったり…。でも、少しでも口から食べられると、ご自宅で過ごせる可能性も高くなるかもしれないし。
口から食べるっていうのは、人間の欲求の中で大部分を占めるものじゃないですか。そういうところにアプローチしていけたらいいなって思います。

お年寄りの誤嚥による肺炎などはよく聞きます。地方では高齢化がより進んでいますから、嚥下の問題は切実ですよね。都内と地方都市のこの十和田とで、患者さんの年代の違いも感じますか?

普通に90代の方がいらっしゃるし、高齢者の割合は都心に比べて多いかなとは思います。

そうなると、お仕事の仕方も変えたりするのですか?

どんどん訛りが戻ってきています(笑)。最初はずっと標準語で話していたんですけど、通じないんですよね。「え?」って聞き返されて、訛って言い直すと分かってもらえるってことがありましたね、最初の頃。方言で患者さんと話していると「ああ帰ってきたな」って実感しました。

青森県の中では、ご出身の横浜町は下北弁、十和田市は南部弁に区分されるということにはなりますが、下北弁と南部弁はわりと似ていますよね。
先ほど「業務に慣れてきた」とおっしゃいましたが、それを実感する時は?

同じ業務をしていて、かかる時間が短くなった時。来たばかりの頃は先回りができなくて、後から「あれもこれもやらなきゃ」と時間がかかることが多かったんですけど、今はだいぶ先が見通せて、段取りがスムーズになりました。できればここに根を下ろして働き、スキルアップして、地域の医療を支えていきたいと思っています。

家賃2万円ダウン&通勤時間大幅短縮の住環境。コロナ禍の先を見据えて新たな趣味を検討中

前田さんのように若い社会人が移住する場所、働く場所としてみたときの十和田市の環境はどうでしょうか? たとえば住環境なんかも重要ですよね。

家賃はかなり嬉しい。川口市に住んでいた時と同じ間取りで2万円違うのは大きいです。それと十和田の冬は寒いって聞いていたんですけど、今のところわりと大丈夫。エアコン1台で過ごしています。野辺地町に比べると雪が少なくてありがたいです。除雪もそんなに何回もしなくて済んでいますし。いいですよ。

通勤に関してはどうでしょう?

以前は埼玉県の川口市に住んでいて、職場が港区。電車と徒歩合わせて通勤に片道1時間かかっていたのが、今は自転車で10分ちょっと。朝寝坊できるようになりました(笑)。

ここからは暮らしについてもお伺いしていきます。まず、十和田の印象は?

1回だけ十和田湖に観光に来たぐらいで、十和田市内はほとんど来たことがなかったんです。来て半年後に車に乗り始めたんですが、コロナ禍もあって、積極的に十和田を開拓はできていないから、あんまり知らないままで…(苦笑)。

住んでみて魅力的に感じたところはありますか?

実家にいた頃は家族で銭湯によく行っていて、東京でも銭湯に行きたくなると行ってました。でも各々が自分のことをやる、という感じで、お客さん同士で話すことって普通ないじゃないですか。それが、ここでは温泉に行くと、おばあちゃんが普通に話しかけてくるので、地域らしさというか、人が温かいんだなって。

素敵ですね。ではお気に入りの温泉は?

「みちのく温泉」や「せせらぎ温泉」。特にみちのく温泉は、昔ながらの熱めのお湯で、好きです!

ちなみに、温泉で会ったおばあちゃんはなんとおっしゃったんですか?

「若いねぇ!肌の張りが違うもんねぇ!」って(笑)。

ほかに好きな場所などありますか?

官庁街通り。私が来たのがちょうど春で、桜がすごくきれいだったんですよね。自転車か徒歩で通勤していたんですけど、仕事を放棄したくなるぐらいきれいでした(笑)。

逆に「もっとこうなったらいいな」というところは?

商店街にもう少し活気が出れば、シャッター街じゃなくなればいいなって思います。通りの雰囲気が素敵なので、もったいない。来たばかりの頃にカフェでコーヒーを飲んだぐらいで、あまり行けていないんですけど。

じゃあ、お仕事以外の時間はどう過ごされていますか?

私、寝るのが好きなんですね。いくらでも寝られる…すみません、こんなことしかなくて(笑)。

オンラインでの交流なんかはされますか?

そうですね。オンライン飲み会で前の職場の仲間と近況報告しあっています。あとは県内各地に同級生がいて、連絡を取っています。でもやっぱり、一緒にご飯を食べたりはできないのでちょっと寂しいかな。

やっぱりコロナが障壁になっていますか?

あ、でも、父がとてもアクティブで、海も山も行く!みたいな人なので、遊びに連れていってもらっています。冬場はスキーに行きますね。月に2回ぐらいかな。七戸町の「町営スキー場」や、野辺地町の「まかど温泉スキー場」にも行きました。

コロナで新しい出会いや友人関係に制限があるのはもちろん残念ですが。前田さんの場合はご家族をとても大切にされているから、濃密にご家族と過ごす時間ができたのは良かった、という部分もありますよね?

はい、そうかもしれません。

今後コロナ禍の時期を抜けることができたとして、やってみたいこと、行ってみたいところはありますか?

十和田湖畔のくねくね道をドライブ! 前は父の運転で行ったので、次は自分の運転で行ってみたいですね。
夏場の趣味も何か見つけたいと思っています。三味線もやってみたいし、社交ダンスも興味があるし。

色々なことに興味を持たれてますね。素敵です! 地域の医療の担い手としてお忙しいとは思いますが、1日も早くコロナが収束して、地域をもっと楽しんでくださることを願います。今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

★温泉&銭湯を紹介している記事があります!ぜひご覧ください。
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・十和田温泉・お宿探訪 “奥入瀬・十和田湖編”
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・十和田温泉・銭湯探訪 “市街地編”
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★十和田市立中央病院の職員などの採用に関する情報はこちらからご覧ください。
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https://towada-iju.com/category/220201_093935

今回の取材場所

十和田市立中央病院

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