とわだを読む 日々の語LOG

TOWADA HIBI COLLECTION WEB MAGAZINE

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これがわたしの生きる道。
~東京のOLが奥入瀬川のほとりで地ビール造り始めました~

20年以上にわたり旅人に愛されてきた道の駅・奥入瀬ろまんパーク内の地ビールレストランが、
「OIRASE Brewery&Restaurant」として新装オープン。
手作りの石窯キッチンで焼いたピザと、レストランに併設された「奥入瀬ブルワリー」で造られる本格ヨーロピアンスタイルのビールが好評です。
安藤和美さんは都内のOLから奥入瀬ブルワリーのブルワーに転身しました。

  • 株式会社 A-WORLD
    安藤和美(あんどう かずみ)

    1980年、北海道旭川市生まれ。10歳から高校卒業まで神奈川県箱根町で暮らす。大学進学を機に上京。卒業後は都内の企業でバックオフィス業務全般を経験。2022年3月、奥入瀬ブルワリー(運営:株式会社 A-WORLD)のブルワーとして十和田市に移住。

運命の(⁉)出会いに導かれて

十和田市に移住したきっかけは、ブルワーになったことなんですよね。

大学を卒業して20年ほど、事務の仕事をしていました。もともと日本酒とかワインとかお酒が好きで。ブルワーになったきっかけは10年以上前になります。友だちが十和田市出身で、でもその友達との出会いは偶然だったんですけど…。

色々気になる (笑)。十和田市出身のお友達が移住のきっかけということですか?

私が一人でウインドーショッピングをしていたとき、疲れてお気に入りのカフェに入ったら、隣に座っていたのがその友達で。

可愛い女の子で、「音楽お好きですか?」って急に声をかけられました。「表参道ヒルズでミニライブがあるけど、友達が急に来られなくなってチケットが1枚余っているので、よかったらどうですか?」って。音楽が好きなので「行きます」って、チケットだけもらって別れたんですよ。実際行ってみたら秦基博さんのライブで、すごく良くて。感動して、ライブ後にお礼を言いたくて探したら、彼女も私を探してくれてて、そのときに初めて連絡先を交換したんです。

運命的な出会い! そこからブルワーには、どうつながるんですか?

その友達に案内してもらったのがきっかけで十和田市を好きになって、東京で青森のイベントがあると参加していたんです。そこで弊社社長( (株)A-WORLD の古里宣光 代表取締役)と知り合って、交流が始まりまして。今回、奥入瀬ブルワリーでブルワーを増やしたいということで、声をかけてもらいました。

無事つながりましたね(笑)。でも未経験からって勇気が要りますよね。

単純にすごく面白そうだなって思いました。この年齢になって、そうやって声かけてくれるっていうのは、なかなかない経験だったので。

迷いはありませんでしたか?

お酒全般に興味があって、酒蔵やワイナリーを見学したり、ワイン用ブドウの収穫を手伝ったりもしていたので、迷いはありませんでした。十和田市に来る前はスクールに通ってワインの勉強もしていたんです。

移住の準備は大変でしたか?

今年(2022年)2月に入社したときは奥入瀬ブルワリーは改装中だったので、当時の住まいにわりと近い「鎌倉ビール」さんで約1カ月間勉強させていただいて、3月にこちらに来ました。引っ越し先とかは会社が全部手配してくれたので、ありがたかったですね。

住むに当たって不安なことはありませんでしたか?

冬以外の時期は旅行で来てたし、友達もUターンして十和田市に住んでるし、仕事はあるし。3月はまだ雪があるんだろうなって、そのくらいのイメージでした。ただ、雪道の運転だけは不安でしたね。

何度も十和田市に来てたんですね。

十和田市に来たとき2~3回は友達の実家に泊まらせてもらっていましたね。一緒に食卓囲んで、ご飯食べさせてもらったりしていたので、人の温かみみたいなのはすでに感じていました。それから、十和田市現代美術館、奥入瀬渓流、十和田湖には必ず行っていましたね。

定番コースもできるほどの馴染みようですね。

定番プラス、道なき道を分け入った秘境の沼とかにも行きました(笑)。現代アートみたいな尖ったものに触れられて、ちょっと足を伸ばせば自然もあり、私にとってはすごくバランスが取れてるというか、いいとこ取りできるところだなっていうのが、十和田市の第一印象ですね。

もともと自然に触れるのがお好きだった?

うーん。東京って、情報もモノも無いものが無い。暮らしていて何も困らないんですよ。それが最初は嬉しかったけど…。北海道で生まれて箱根が実家で、子どものときは田舎がつまんないって思っていたのに、逆に都会にずっといるとどこか窮屈だな、みたいな感覚が出てきて。そんなときに十和田市の友達と出会って「行きたい」って思いました。自分が育った環境を見直したり、自然っていいなって改めて思えたので、タイミングや出会いというのは大きかったかな。すごく人に恵まれたなと思っています。

「住まわせてもらっている」感覚を思い出させてくれる

まだ4カ月ほどですが、住み心地はいかがですか?

住みやすいですね。私の実家の箱根はスーパーとかが少ないので、利便性の意味でも。あと、空が広い!旅行でも感じていましたけど、生活するとより実感します。ちょうど日が伸びていく時期を過ごして、空の明るさが、人工的な光が多い東京と全然違うんですよ。

自然の色ってこんなに鮮やかだったんだ!っていうのも発見です。4月、5月ぐらいになってバーって芽吹き始めるじゃないですか。東京にも色はあるのに、目に入ってくる色が何か違うと思ってたら、やっぱり圧倒的に自然の色が違うんですよね。緑一つとってもいろんな種類がある。お花の色も、東京の公園で見ているのとまた違うんですよ。虫もめっちゃいるし (笑)。本当の自然ってこうだよね、みたいなのを実感しています。

計画されたものより、もっと野生に近い自然だったんですか?

そうですね。「住まわせてもらっているんだな」っていうのを改めて感じるというか。東京にいると「住んでる」って感じなんですよね。人間以外の生き物が圧倒的に少ないので。山に登ったときに虫や自然に出会って、やっぱり人も自然の一部なんだよなって思い出す。あの感覚をもっと身近に感じられるところがここなのかなって思います。

お休みの日は何をしているんですか?

ビールの仕込みに合わせた不定休なんですけど、ドライブとか買い物とか。カフェに入って本を読んだり。十和田市内の「Street Smart Coffee」さんは休みのたびに行ってますね。

「もっとこうなったらいいな」ということはありますか?

やっぱり、車社会じゃないですか。若い子たちや、車を持たない人たちの交通手段が少ないなって感じるので、若い子たちが気軽に自分のまちを知れるようなツールが増えたらいいんじゃないかなって思います。箱根も似た状況なんですけど、温泉と美術館で観光客を呼んでいるので、バスは充実しています。十和田市も交通手段があれば、若者の行動範囲も変わってくるのかなと思います。

今行ってみたいところ、やってみたいことは?

目下のところカヌーを極めたいと思ってます。旅行で来てたときからカヌーをやっていたんですけど、「十和田湖ガイドハウス櫂(かい)」さんでカヌー塾っていうのをやっていて、それに早く行きたい!

知られざるブルワーのお仕事と、ビールの自由

ブルワーの仕事とは?

仕込みのときのかっこいいイメージが強いと思うんですけど、それ以外も、仕込みが終わったら毎日分析して、発酵の進み具合を確認したり、ビールを瓶詰めしたり、ラベルを貼ったり。細かい作業と力仕事が多めです。作業をどう計画的に進めるかが一番大事。ここにある3つの仕込み釜もそうですけど、全工程において清潔を保つことも。アルコール発酵なので、雑菌に汚染されると台無しになってしまうんですよね。

清潔を保つってどんなことをするんですか?

仕込みが終わるごとに必ず釜を洗います。配管の中も含めてシャワーで流して、次にお湯を溜めて洗ったり。異物がないか念入りに確認して、洗剤は使いません。清潔を保つことに関してはやりすぎてダメってことはなくて、心配だったらもう1回やる、ぐらいの感じです。

なるほど。どうやってビールを作るんですか?

ビールの原料の基本は、麦芽(モルト)、ホップ、水の3つになります。
まず真ん中の釜でお湯と砕いた麦芽を合わせて、「糖化」の工程をやります。麦芽の中のでんぷんを糖に変えて、ビールの素になる麦汁を作るってことですね。そしたら次は向かって右側の釜に移して濾過して、麦汁と麦芽かすを分けます。

そして、また真ん中に戻して沸騰させてホップを入れる。ホップから独特の苦味や香りが生まれます。ホップにも種類があるので、何を使うかで変わりますね。そうやってホップの”いいとこ取り”をしたら、今度は左側の釜でホップかすと液体を分離します。最後に発酵タンクに移し、酵母を入れて発酵させることで、糖がアルコールに変わっていきます。1回の仕込みに1日かかります。

1回の仕込みでどのくらいのビールができるんですか?

1キロリットルです。1回の仕込みでできるビールを「1バッチ」って数えるんですけど。

材料3つで味のバリエーションが出せるのはすごいですね。

「ピルスナー(ビールの代表的なスタイルの一種)だったら絶対これしか使ってはいけない」という決まりがないんですよ。ブルワーの好みや作りたいビールのイメージで麦芽とかホップの種類、量、比率を決められる。ビールって自由度が高くて、そこは産地や原料で管理するワインとの違いかもしれません。

同じピルスナーを名乗っていても中身や味はそれぞれ違うんですね。

そうですね。うちのような小規模なブルワリーは特に、味の個性などの「このブルワリーだからこそ!」という魅力で、お客様に手にとっていただけるようにすることが大切だと思っています。

“お酒好き”として見たとき、奥入瀬ブルワリーのビールをどう感じますか?

私はわりとクセの強いものが好きなんですけど、体調によっては飲み疲れすることもある。でもここのビールの定番4種は、どれもとっても飲みやすいと私は思っています。もちろん味の特徴はそれぞれですが。

定番の4種とは?

「ピルスナー」は、苦みがちょっとあるけどスルスル飲める万人向け。「ダークラガー」は一般的に重たい印象もあったりするけど、うちのは苦みはきちんと、でも後味はスッキリ。コーヒーっぽさもあって、チョコレートと合うなって思ってます。

デザートとビール。新鮮ですね!

「ヴァイツェン」はめっちゃトロピカル。「バナナ香」って言われるフルーティな香りが特徴なんですよ。「アンバーラガー」はピルスナーとダークの間で、ふくよかな香りがいい。ダークだと濃すぎて、ピルスナーだと軽すぎるっていうとき。例えばちょっと疲れてる夜、寝る前に1杯じっくり飲みたいときとかにちょうどいい気がします。

熱が伝わるお話しぶり。充実しているんですね!

大変ですけどね。覚えることは山ほどあるし。麦芽もホップも植物由来で、酵母もあって、生き物を扱ってるから、その日の気温とか湿度で毎日状態が違うんですよね。品質を安定させるには、やっぱり経験がものをいうって思います。
でも楽しいですね。ヘッドブルワーの鈴木さんもすごく丁寧に教えてくださって本当にありがたい。個人的には一人で仕込みができるようになるのが一つの目標で、鈴木さんとは「新しいビールを作っていきたいよね」って話をしています。私もいつかは自分が作りたいビールを見つけたい。見つけて、作って、お客さんが美味しいって飲んでくれるのを見たいです。

安藤さんが仕込んだ新作ビール、楽しみです。今日はありがとうございました。

今回の取材場所

OIRASE BEER Brewery&Restaurant(奥入瀬ろまんパーク)

〒034-0301 青森県十和田市大字奥瀬字堰道39-1
WEBサイト:https://oirase.beer/
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