ほんの少しの勇気が“新しいふるさと”をつくった。
転勤族家族が十和田に根を下ろすまで
~後編~

北海道、岐阜、長野と移り住み、十和田に根を下ろすことを決めた髙村さんご一家。定住を決めたその先には、子どもたちとの新しい季節が始まっていました。
祭りの音、BBQの煙、ご近所から届くスイカ、子どもたちの笑い声——。
十和田での日々が彩りを増していった背景には “ほんの少しの勇気”もありました。
後編では、髙村家が十和田で紡いでいる“暮らしの風景”を追いかけます。

たかむら やすし

髙村 靖

1987年、北海道道南の酪農を営む家に生まれる。2007年、酪農学園大学短期大学部卒業。農業関連商社のサービスエンジニアとして、農業機械の整備・メンテナンスに携わる。2013年、同郷の妻と結婚。2017年、転勤にともない家族で十和田市に住み始める。その後、定住を決意し搾乳機メーカーに転籍。妻、長女・波未ちゃん(なみ・11)、二女・菜桜ちゃん(なお・8)、長男・海成くん(かいせい・6)との5人家族。

海まで40分、雪山まで30分。親子で楽しむ季節ごとの遊び

前編では、定住までの経緯を中心にお聞きしました。後編は、実際の暮らしぶりをもっと詳しく伺いたいと思います。週末はどんなふうに過ごされているんですか?

十和田を気に入った理由の一つに、山も海も近いっていうのがあったんですよね。僕はサーフィンをするので。三沢市やおいらせ町の海まで車で40分くらいなので、朝4~5時に起きて海に入って、10時頃に子どもたちの予定があれば、それに間に合うよう戻ってきます。

サーファーの方って、季節に関係なく海に入ると聞きますが。

本当に季節は関係ないですね(笑)。冬でも行きます。私は子どもを連れてついて行くと大変なので、年に1〜2回くらいかな。基本はパパだけ。

実は昨日も行ってきました(笑)。でも、冬は家族みんなでスノーボードに行きますよ。奥入瀬渓流温泉スキー場まで車で約30分なので、シーズン中は毎週のように行ってましたね。

スノーボードは全員で滑るんですか?

はい。今は全員ちゃんと滑れます。末っ子は2歳から山に連れて行っていて、最初はただ雪山でお菓子を食べるのが楽しみみたいな感じだったんですけど。子どもたちをハーネスのようなもので引きながら滑らせて慣れさせていって、今はだいぶ上手になりました。とくに末っ子はハーネスを使わずに滑れるようになるのが早かったので、「僕が最初に一人で滑れるようになった!」ってお姉ちゃんたちに自慢してます(笑)。

すごいですね。勝手なイメージですが、北海道ご出身ということで、ご夫婦ともにお上手なんだろうなという気がします。

たしかにスキーは学生時代、授業でやりましたよ。ただ、私はあんまり上手にならなかったけど(笑)。スノボも大人になってから始めて、最初は全然下手でした。十和田に来てスキー場に通うようになってからハマって。一昨年はシーズンパスを買って、年に20回位行ったんじゃない? 

僕は高校でスノーボードの部活に入っていました。だからブランクはありましたけど、人並みには滑れます。思い立ったらすぐ行ける距離にスキー場があるのが、十和田の魅力だと思います。

祭りとイベントがつくる、“意外と熱い”文化

イベントやお祭りも、家族で楽しまれているんですよね。

「秋まつり」は衝撃でしたね。僕らは北海道・長野・岐阜と住んできましたけど、ここまで街全体で盛り上がるお祭りは、見たことがなかったです。

小学校が休みになるっていうのがすごいよね。地域の方々の祭りにかける思いが伝わります。十和田の人は基本的に穏やかだけど、祭りとなるとちょっと意外なくらい熱い。

「十和田市秋まつり」は、毎年9月の初旬に開催されるお祭りですね。地域のみなさんが製作した山車を運行したり、流し踊りやパレードを催したり、3日間にわたり、官庁街通りを中心に、にぎやかに行われます。

うちは山車組に参加してはいないんですが、子どもたちもお祭りが大好きで、射的やくじ引き、ポケモンのカードなんかを眺めているだけで楽しそう(笑)。

保育園・小学校・地域行事で自然に広がるつながり

前編では、髙村さんご家族が「十和田に定住しよう」と考え始めた背景を伺いました。後編では、実際にこの土地でどんな人とのつながりが生まれてきたのか、お聞きしていきたいと思います。

まず保育園で親同士のつながりができましたし、小学校に上がってからは地域のお祭りに、学校として参加するようになりました。「南コミュニティセンターまつり」というんですけど、学校が出店やバザーに参加していて、保護者はラーメン屋さんの担当になったりします。お母さん方が中心となって動く中で、今年は僕も朝6時半から巻き込まれていました(笑)。

高学年の子どもたちは、暇な時間に自然と出店を手伝ったり、会場の仕事を手伝ったりもしていましたね。うちの子どもたちは合唱部の活動としてステージで合唱を披露しました。 行事で顔を合わせるうちに自然と話すようになった保護者の方々と、今では家族ぐるみで集まる関係になっています。1か月に1回くらいのペースで、集まってご飯を食べたり。

ホームパーティーですか。

はい。十和田に家を建ててからは、わが家が集合場所になることも多くて。保育園時代の友だちを呼んだり、小学校の友だちを呼んだり、夫の職場の人が来ることもあります。私が「ただいま」と帰ったら知らない人がリビングにいることもあります(笑)。

職場の雰囲気が良くて、そういう気軽な関係でいられるのはありがたいですね。 家を建ててからBBQもよくやっています。せっかく肉や魚がおいしい土地なので、地元のお店でちょっと良いお肉を買ってきて、みんなで外で焼くと最高です。

こんなに気軽に集まれる関係ができたのも、十和田に来て良かったと思うことの一つです。

お話を聞いていると、“人とのつながり”の豊かさをすごく感じます。すごくオープンで、十和田の人・土地・暮らしと混ざり合っている印象ですね。

そうですね。保育園・小学校・地域イベントのそれぞれに出会いがあって、それが重なって今の“つながりの土台”ができました。

ご近所づきあいはいかがですか?

隣の家の方がスイカを持ってきてくれたり、裏のお宅の方が草刈りをしてくれたり。 我が家は、いわゆる新興住宅地ではなくて、もともと地元の方が住んでいたエリアにあるので、移住者だけのコミュニティというより、地元住民の輪に自然に混ざっているという感じです。

市内の写真館「フォトスタジオふたば」さんとのご縁も大きいですね。

そうだよね。お宮参りをした神社の近くにあって、最初は家族写真を飛び込みでお願いしただけだったんですが、仕上がりが良くて、それ以来ずっと家族の節目をお願いしています。 お宮参り、入学、七五三…と全部そろっているので、アルバムを開くと“十和田の時間”がそのまま残っているように感じます。

子育てで見えた、この街の良さと課題

十和田で子育てをしていて、「ここは良かった」「ここはもう少し」という点があれば教えてください。

やっぱり良かったのは、保育園・学校・病院・習い事の“近さ”ですね。子どもが3人いると、これだけで家事と仕事の両立がぐっと楽になります。遊び場も、自然が豊かなので季節ごとに楽しめますし。

これも繰り返しになってしまいますが、海も山もすぐなので、アウトドア好きにはたまらない環境です。食に関しても食材のレベルが全体的に高いので、日々の食卓が豊かになったと実感しています。

改善されるといいなと思うのは、屋内で遊べる場所がもう少しあると助かります。天気が悪い日や冬場は、行き先が限られるので。 あとは、産科が減っていることは先ほども触れましたけど、例えば、これから出産される方々のサポートを充実するともっといいと思います。

放課後に、子どもが安心して過ごせる“居場所”がもう少しあるといいのかもしれない。自然の遊び場は十分にあるので、天候を気にせず寄れる場所があると、子どもたちの過ごし方の幅が、もっと広がると思います。

移住を考えている人へ。ちょっとした勇気が未来を変える

最後に、これから十和田への移住を考えている人、暮らしを始める人へメッセージをお願いできますか。

実は、長野時代の子育てで、ちょっと失敗したなと思うところがあって。 長野で長女を育てていた頃は、「どうせ転勤だし」「すぐいなくなるし」と思って、あまり自分から人に関わらなかったんです。でも転勤のあいさつをしたとき、周りの人が「連絡先交換しようよ」「ご飯行こうよ」と言ってくれて…。
「もっと早く、自分から動いていればよかった」とすごく後悔しました。 その経験があったので、十和田に来たときに「今回は自分から動こう」と決めました。子育て支援センターで親子に声をかけたり、行事に参加したり、子どもを通して関わりを広げたり。 少し勇気を出すだけで、世界が全然変わりました。住んで、人とつながるだけで、街がぐっと身近になったというか、“自分の街”と思えてきました。

子どもを育てながら生活していく中で、僕もやっぱり、地域のつながりって大切だと思うようになりました。それは移住者とか地元とか関係なくて。十和田は、自分から心を開けば、ちゃんと受け止めてくれる人がいる街だと思います。

もし移住を迷っているなら、ぜひ一度来てみてほしいです。私たちは本当に来てよかったと思っているので。この街で、うちの子たちみたいに楽しく過ごせる人が増えたら嬉しいですね。

ちょっとした行動が、“新しいふるさと”をつくる——。素敵な考え方ですね。今日は楽しいお話をありがとうございました。

~おわり~