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農業法人経営者の座談会
テーマは【十和田で農業×起業】~前編~

農林水産省のデータによれば、農家数が減少する中、企業として農業に携わる「農業法人」は増加。ここ十和田市でも農業で起業する人がいます。今回は、若手農業法人経営者のトークを前後編で。農業って儲かるの?

  • 株式会社グリーンソウル 代表取締役
    米田拓実 (まいた たくみ)

    1973年十和田市生まれ。実家は兼業農家。食品メーカーの営業として都内で勤務後、実家の農地を活かし25歳で就農。2012年4月(株)グリーンソウル設立。ながいもを中心に、ごぼう、水稲、大根、にんにくを生産・販売。青森県農業経営者協会優良農業経営者賞、青森県攻めの農林水産業賞大賞受賞。

  •  十和田アグリ株式会社/有限会社竹ヶ原農産 代表取締役
    竹ヶ原直大 (たけがはら なおひろ)

    1979年十和田市生まれ。実家は米農家。大学卒業後、十和田信用金庫(現:青い森信用金庫)入行。2013年8月、退職と同時に十和田アグリ(株)設立。2015年、「あおもりの旨い米グランプリ」まっしぐらの部で生産米がグランプリ受賞。

  • 株式会社岡本 取締役生産部長
    岡本巨樹 (おかもと なおき)

    1975年十和田市生まれ。飲食店勤務、約3カ月の海外放浪などを経て父が創業した (株)岡本に入社。リサイクル業などから農業生産法人へと業態を変えた。趣味のスノーボードでは2016年、全日本スキー連盟公認スノーボード指導者資格取得。

恥ずかしかった〝農家の息子〟を誇りに変えて、起業へ

まず米田さんからご紹介させていただきますと、モットーは「明るい未来の見える農業」。ながいもを中心に大根・ごぼう・にんにく合わせて94haを耕作し、従業員28名。JAのほかに県内外の冷食工場にとろろの原材料のながいもを出荷したりと販路を広げていらっしゃいます。

次に竹ヶ原さんはお米を主に大豆と飼料作物を手がけ、創業以来面積拡大中。全部で125haの農地を、ドローンも駆使して管理していらっしゃいます。収穫が終わった後の稲わらを家畜用の餌として出荷もしています。従業員は13名。

岡本さんはお1人で大根栽培を始められて、今ではスタッフの方も増え、大根を中心にながいも、ごぼう合わせて50ha弱の畑で生産しています。

皆さん起業されて10年以内、40代ということで農業者の中では若手なわけですが、それぞれ起業のきっかけは何だったのでしょうか?

私は都内の専門学校で簿記や情報処理を学んだあと十和田市の食品会社に就職したのですが、勤務は東京や仙台市で。5年働いて地元に戻りました。帰ってきたときに、何も仕事がなくて。実家が兼業農家だったので、その土地で農業を始めたら面白いなって。農業はそこからです。15年近く個人でやってきて、法人化したのはやっぱりメリットが大きいと判断したから。個人での大規模化より、資金繰り面を考えると会社のほうがやりやすい。

経営している2つの会社のうち、(有)竹ヶ原農産の方は父から引き継いだものなんですね。米農家をしながら、収穫後に出たわらを自分で収集して肉牛の餌として販売する事業を父がやってました。私は長男だから継ぐことも頭にないわけじゃなかったけど、心が決まったのは東日本大震災がきっかけ。当時、信用金庫に勤めていて八戸市にいたんですけど、発生直後は電気もつかない、食べるものもない…。お店の棚から食料が消えたので、上司から「お前の実家から米をなんとかできないか」と話があり、両親と相談して用意しました。信金の職員が当時、600名以上いたんですかね。行内でアンケートを取って希望者を募り、米を分配しました。そのとき初めて、自分の親がしていた仕事の重要性を理解しました。それまでは〝農家の息子〟っていうのが恥ずかしかった。友だちが休みの日、遊びに連れて行ってもらっているときに、自分は田植えとか稲刈りを手伝わなきゃいけなかったのも嫌で、農業に対して誇らしいと思ったことがなかった。でもそのときに感覚がガラッと変わって、これはとても重要なことだなと。日本の政策的にも「成長産業にしよう」という流れが出てきたこともあり、農業に残りの人生を賭けてみようと。決めるまでは短期間でした。震災から1年半で銀行を辞めて、起業しました。

私の場合、会社は父が興したもので、最初は廃品回収と空ビンの問屋から始まってます。一升瓶を出荷していた先の八戸市の造り酒屋で廃棄物の麹が出る。それを使って大根の漬け物を作り始めたのが野菜に関わった最初です。初めは契約農家さんから届いた大根の一次加工をしてました。ただ、原料がよくないと加工業者は利益が出ない。

素材のままでは売れないものを集めて加工するわけじゃないんですか? 「どんな原料でも加工すれば食べられる」というもったいない精神で加工するわけでは?

スーパーで売ってるものは大きさが揃ってるでしょ? 加工の中でも規格外っていうのはありまして。規格に合わなくて廃棄分が多いと、仕入れに対して売れる部分が少なくなるから利益が出ない。農家さんが作る大根を見ていて、自分で作ってみようと思ったのが畑に触ったきっかけです。前職は三沢市でバーテンダーをやってました。最初の頃は2足のワラジで、夜はバー、昼は契約農家さんで収穫。今は〝水〟から〝土〟の商売になりましたけど(笑)。水から土へ、夜の世界から昼の世界へ。

うまい(笑)! 実家が農業ではないわけで、作物づくりのノウハウはどうやって学んだんですか?

契約農家さんに収穫しに行ってたので、3~4年は栽培歴がありました。害虫の種類とか農薬、どんなことをすればどのくらいの大きさの大根が育つかみたいなことはだんだん分かってきて、あとはインターネットですね。農家さんのブログを見たり、害虫の気持ちになったりして考える(笑)。何が好きでここにつくんだ?とか。対策としては適期適作、あとは調べて、効果の高い薬剤を散布するとかですね。

  • 田植作業

  • 水稲播種作業

1+1=2以上に広がる法人化の可能性。正直、儲かってますか?

法人化のメリットは?

1人で仕事をするよりも、2人になると3人分、4人分の仕事ができる。5人いると10人分できる。

1+1=2じゃないんですね。

じゃないです。人を雇いたいとなったら、会社にしないとできないじゃないですか。

やはり社会的信用度が違いますか。

後継者不足で農地が荒れてくるのを見ていたから、人を集めて、近隣の農地を借りて、耕作放棄地を作らないようにっていうのが思いとしてあったので。

会社にするとなったとき、不安はなかったですか?

最初はとにかく、空いてる畑を借りまくって。初年度の売上は2500(万円)くらいかな。個人農家さんでもそのくらいの人はけっこういます。あとは、農業機械を買うのが好きなんで…(笑)。

それは分かります(笑)。

どんどん機械を揃えて、売上を増やしていって。

  • 収穫作業①

  • 収穫作業②

起業から7年ぐらいたっていますが、今の売上は?

10倍を越えてますね。

すごい! 年間の売り上げは、ほかのおふたりはいかがですか?

うちは2つの会社で各1億ぐらいずつ。

今は2億弱くらい。

皆さんお金持ち!

いやーそれが、そうでもないんです。ここから出てくものも大きいから。

米田さんは食品、竹ケ原さんは金融、岡本さんは飲食を経験されていますけど、農業ってほかの業種と経費のかかり方が違うものですか?

うちは農薬・肥料・資材とかでだいたい年間6,000万円ぐらい飛んでいきます。

人件費は?

人件費も売り上げの3割ぐらいいきますよ。

機械化していくと人件費が抑えられるのでは?

でもその分面積を拡大していくので。いたちごっこみたいな感じです。あと設備投資も大きいかな。

やっぱり機械が高いんですよ。高いのは1000万円、2000万円台。コンバインとか田植え機とかは1000万円クラス。大根の収穫機は1,600万円くらい。

家建つぐらいの金額じゃないですか! その支出を考えると、個人では難しいですよね。ローンを組むのにも法人の方が信用がありそう…。

国の補助を使ったりしますね。農業機械への設備投資だけで2~3億は使っていると思うんですけど、資金繰りの面で金融機関に相談するときも、法人じゃないと無理ですね。これも法人化のメリットといえるところ。

就農のとき考えたのが、〝儲かる農業〟にしようということ。そのためにはきちんと法人化をして雇用をして、大規模化、効率化を図って。私が子どもの頃に感じたような「かっこ悪い」とか「恥ずかしい」といった感覚を変えていきたいなというのもあって、かっこいいもの、最新の技術や機械を取り入れたかった。できるチャレンジは何でもしていこうと。

規模を拡大し、効率化を図り、利益率を上げる。農業法人共通の目標ですね。

必然的にやらざるを得ない状態ですよね。人が少ないので、とにかく効率化。いかに従業員にラクをさせて儲けるかが目標みたいなところがある。

未経験者大歓迎で休みも取れる農業法人。でも社長はやっぱり忙しい

皆さんの会社ではお休みってどうなっているんですか? 今年(2019年)4月には働き方改革関連法の一部が施行されて「長時間労働はダメ」となっていますけど、農業の実態にはあまり合わない気が。繁忙期と閑散期にかなり差がありますよね?

日曜日は基本的に休みにしています、うちは。私は働きますが。

うちもです。私は繁忙期は朝4時からとか、夜12時まで(働く)ってこともあります。でも従業員の労働時間は働き方改革の流れに合わせるようにしないと、なかなか人も確保できないですよ。

うちは8時~17時の勤務で毎週日曜休みって募集しても、あんまり応募ないですよ…。

米田さんの会社では20~70代が活躍されているということで、幅広いですね。

70代はよく稼ぎます!

やっぱり経験者のほうがいいんですか?

いえ、自分のやってた仕事のやり方にこだわられると困るので…。社員の9割は未経験者です。

うちも20~60代が働いてますが未経験者が多いです。特に若い人は。

うちは20~40代と、中堅スタッフで60代。その上は限りなく上…80代もいます。

作物によって繁忙期って違うと思うんですが、お三方の1日の仕事の流れは?

通常のときは朝7時くらいに会社に行って、7時30分~8時くらいの間にミーティングをして、そこからは時期によって全然違います。そんなに忙しくない時期は夕方5時に帰れますよ。忙しい時期は私も現場に出ますし、機械も運転しますし。忙しいと朝4時に出たり帰りが夜中12時過ぎることも。

忙しいのはいつですか?

春と秋ですね。春は田植えと苗づくりがあり、秋は米の収穫と、稲刈り後のわらを集めたり。

うちは作物を切らさないようにしているので、ほぼ1年中忙しい。朝7時に事務所行って、その日の仕事の流れを作って、帰りは8時~9時ですね。

1年中安定して仕事があるように設定している、ということですね。それは従業員としては安心。

はい。波があると給料を払う側としてもしんどいですし、一度人が地域外に出ていくと戻ってこないので。やることがなくならないように作物を組み合わせました。真冬でもながいもをずっと収穫しています。

うちは収穫が始まると4時に家を出て、5時に作業開始。収穫が終わったら8時くらいから選果で、品質を見ながら、出荷先に合わせたサイズ分けを考えながら、夜の8~9時くらいまで仕事します。春から11月後半までの私はワーカホリックで、雨でも畑を眺めないと気が済まない。その代わり冬は山に行ってしまいます(笑)。スノーボードで青森県のデモンストレーターをしているので、シーズン初めには県内のインストラクターにデモンストレーションをして見せて、それを基本にみんなが各スキー場やクラブで教える、という立場です。

農閑期は趣味に没頭。農業ならではのライフスタイルで、それもまたいいですよね。

今回の取材場所

市民交流プラザ トワーレ

 隈研吾氏設計の市民交流プラザ「トワーレ」は、「みちと広場を融合させたにぎわいの広場」をコンセプトに平成26年10月14日にオープンしました。
 イベントの他、市民活動支援ゾーン、たまり場ゾーン、子育て支援ゾーンなど多数の用途で市民から利用されています。
 気軽に立ち寄れる場所となっていますので是非ご利用下さい。
住所:〒034-0011 青森県十和田市 稲生町18-33
TEL:0176-58-5670
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