とわだを読む 日々の語LOG

TOWADA HIBI COLLECTION WEB MAGAZINE

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“KIBI”是、好日。
しあわせ運ぶジェラテリアのつくりかた【前編】

十和田市現代美術館から徒歩3分。十和田市にまた1つ、魅力的なスポットが増えました!緑豊かな公園を望むジェラテリア(ジェラートのお店)の名前は、「KIBI(キビ)ジェラート」。イタリアの伝統的な製法で、県産食材を取り入れた季節のジェラートを提供しています。メニューは週替わりで常時8種類。美味しいジェラートと居心地の良い空間を目当てに、オープン直後から多くの人でにぎわっています。
今回の語ログは、家族で十和田市に移住し、念願のお店をオープンした夫妻の移住&起業のお話をお届け。まずは、十和田市にUターンした日和さんが語る前編です。

  • くじ ひより
    久慈 日和

    青森県十和田市出身。大学進学を機に上京し、卒業後は制作業界へ。約10年間、映像・WEB・グラフィックなどのデザインに携わる。その後、出版社に転職し、広告プランニングの仕事に。2020年、制作プロデューサー/ディレクターとして独立し、夫婦で会社を設立。2023年7月、家族で十和田市に移住。

コロナ禍で気づいた地元の良さ

日和さんは十和田市のご出身なんですよね。

はい。大学進学で上京して、新卒で制作業界に入って、映像ディレクターをしていました。

お店のSNSがおしゃれだなーと思って拝見していたのですが、さすがのセンス。納得です。

あはは(笑)。就職して10年くらいは、映像、WEB、グラフィックのディレクションの仕事をしていたんです。徐々に企画立案する場面が増えてきて。コンテンツ企画の仕事を極めたいと思い、雑誌出版社に転職しました。

ということは、移住前のお仕事は出版社ですか。

そうです。出版社でメーカーさんのプロモーションの企画制作や雑誌メディアを活用した企業、自治体のコラボレーション企画など、広告制作の仕事をしていました。

こちらに来られたのはいつですか。

2023年7月に十和田市に移住しました。移住のきっかけとしてはコロナ禍になったことが大きかったと思います。父の闘病をきっかけに、出版社を辞めてフリーランスになりました。子供を連れて頻繁に帰省していたのですが、そのタイミングでロックダウンに。東京に行き来できなくなり、半年ほど十和田に滞在し、子供と両親と暮らしていました。今思えば、移住のプレ期間になっていたと感じます。

日和さんは制作業を、夫の拓路さんはヘアメイクで、ご夫婦ともフリーランスでお仕事されていたんですね。

私もフリーランスになったので、夫婦で会社をつくりました。私の場合、ロックダウン直後は仕事が減りましたが、徐々に観光誘致のプランニングの仕事が増えました。日常の制限は徐々に解除されましたが、インバウンドも消滅し、国内旅行も途絶え、観光地はどこも困惑していました。地域やホテルの観光誘致の課題に向き合う中で、Uターンするなら地元の観光に貢献したいという気持ちが芽生えた気がします。

そんな中で、お仕事を通じて地元を意識するようになったと。

仕事と私生活と両方ですね。コロナで気付かされることが多かったです。都内では外出できず公園も閉鎖され、窮屈な生活だったと思います。食の楽しみ、豊かな自然、家族の大切さを実感し、地元の良さに目を向けるようになりました。

十和田は自然豊かですよね。やっぱり自然に親しんで育たれたのですか?

父方も母方も、おじいちゃん、おばあちゃんが農家です。母は津軽地方の出身で実家がリンゴ農家、父の方は米とか色々作っていて。

美味しいものに囲まれて育ったんですね。

そうですね。畑の野菜や果物に囲まれて、季節を感じながら美味しい手料理で育ててもらったんだなと、今、思います。学生の頃は、都会に出て働くのが当たり前という考えだったし、自分がやりたい仕事は地元にはないだろうなって思ってました。ものづくりの仕事が好きで、仕事中心でこれまでやってきたけど、子供が生まれてからは家族にシフトしたというか。親族が近くにいることも含めて、地元の良さを感じます。

「本当に美味しいアイスってあるの?」から始まった夫妻の起業プロジェクト

お子さんはおいくつなんですか?

小学1年生と2歳です。

お子さんは移住前に生まれたんですね。そんな中で実際、どう行動を起こしていったんですか?

アイスクリームショップは、ポップで、カジュアルで、フォトジェニックで面白いなと以前から思っていて。地元を意識するようになった時、自然と「アイスクリームショップ」のアイデアが浮かびました。地域で生産される食材を取り扱いたいという想いがあったからです。農作物や乳製品を使用するので、地域とのつながりや食育要素もあります。十和田市現代美術館に観光に来る方は感度も高く、自然観光の方も多いのでフォトジェニックな要素もマッチすると感じました。何より「アイスクリーム」のアイテムが持っている「幸福感」が好きです。私自身も、家族とのお出かけの際に買ってもらえる特別感のある食べ物だったので。アイスクリームを食べる風景には、懐かしさや愛おしさを感じます。

主人に話したら「本当に美味しいアイスってあるの?あるならやり甲斐がある」と言われ、そこから都内や旅行先で食べ歩いたんです。そして、衝撃を受けた商品に出会いました。イタリア人の職人が1人で作っているジェラートショップで、奥深い味わいがあり、明らかな食感の違いを感じました。レモンソルベもマスカルポーネチーズのジェラートもこの素材はジェラートにするのが一番美味しいんじゃないかと思う程、完成された味でした。

じゃあ、最初は半信半疑だったかもしれないけれども、一度本当に美味しいものに出会ったらすぐに動き出したという感じですか?

そうですね。その味を再現したいという気持ちがあり、イタリアの伝統的なジェラートの製造法にたどり着きました。色々あって予定がずれ込みましたが、夫は実際にイタリアに行ってジェラートを練り上げるマシンの扱いと構造学についてジェラート職人から学んできました。
私は手作りジェラートの料理家さんの元に通い、家庭で少量で作れるイタリアンジェラートのレシピを学びました。食材の掛け合わせやアレンジが面白くて、どんな素材もジェラートになるんだなとワクワクしましたね。スパイスやハーブを使う遊び心のあるアイデアも面白いと感じて、自分でもレシピを考えるようになりました。

子育て、お仕事、起業と移住の準備と大変だったんじゃないですか?

そうですね。はじめに事業計画書とスケジュールをしっかり作っていたので、進める上で役に立ちました。コンセプトやデザインを考えたり、いつまでに何をやるかは制作業でやってきたことだったので、経験が生かされたと感じます。
子育てについては、母や兄家族が協力してくれたことが、とても支えになりました。親戚や同級生も周りにいるので、意見を聞いたりサポートしてくれたり、開業する上でも地元の有り難さを感じて、感謝の気持ちでいっぱいです。

しっかり準備しているから、不安はあまりなかったんでしょうか?

ジェラートで言うと「寒い時期どうするの?」とよく聞かれますね笑
冬は観光客も減りますし、公園からの道も雪で埋まるので、色んな要因で減ると思いますが、冬でも美味しいスイーツを食べられる場所があるといいですよね。個人的には、冬に旬を迎える果実がとても楽しみですし、冬の景色を眺めながら暖かい部屋で食べるジェラートも格別だと思っていますよ(笑)

この公園の借景が素敵ですものね。味ももちろんだと思うんですが、お店の雰囲気にもこだわりが詰まっていると思います。外観、内装、窓の外の風景も含め、どこを切り取っても“映え”ますよね。

お店のロゴは「この地域に訪れた人に幸せな記憶を残せるように」とジェラートと十和田湖をモチーフにして作りました。
建築デザインも公園の景色を切り取って眺められる設計にしてくださいました。コンパクトな箱ですが、窓からの公園の抜け感は心地よく、デザイナーさんの感性を感じます。

地元食材×イタリアの伝統製法。東京にないジェラテリアを、十和田で。

そして肝心のジェラート。いただきましたが、どれもすごく美味しいです。メニューが週替わりで8種類ずつというのは、すごいですね。

東京の友だちにも「都内にもそんなお店ないよ」って言われました(笑)。更新スケジュールが決まっているので、そこに合わせてメニューを切り替えています。レシピ自体は今はもう100種類以上あるので、一から考えるわけではないのですが、フレッシュな野菜や果物などの食材を使ったジェラートは扱いが難しく、品種によっても仕上がりが違うので、都度調整しています。8種類の組み合わせについても「どのフレーバーにしようか選べない!」と言ってもらえるよう、毎週工夫しています。

2024年の8月15日にオープンですよね。オープンしてからの約3ヶ月はいかがでしたか?

直接お客さんの顔を見れる仕事なんだなと実感しています。美味しいと言ってもらえると本当に嬉しいですね!美術館のお客さんやドライブやツーリングで立ち寄る方も多いですし、地元の方で毎週来店してくれるお客さんもいて、やりがいを感じます。オープン当初から、ご近所でお店をしている方達も応援してくれていて、それが心の励みになっています。「あ!缶切りない!」ってなった時に、ご近所のお店に借りに行ったりとか(笑)地域のひとの温かさとつながりをいつも感じています。

お仕事の分担はどうされているんですか?

フレーバーのアイデアやレシピは2人で相談し、旬の食材などの仕入れ状況や時節のイベントを取り入れながら決めています。果物の仕入れは私が担当していますが、配合を決めて製造機で作る工程は主人が担当です。

ワッフルとコーヒーもいただきましたが、これもまた美味しかったです。

コーヒーは、主人がグラインダーとエスプレッソマシンを調整して淹れています。コーヒー好きなこともありますが、よく勉強してますし、何事も手際よく着実にこなすので、器用で尊敬しますね。ワッフルのパン製造は私の担当です。天然酵母で作っているので、予備醗酵から一次醗酵、二次発酵と毎朝生地から手作りしています。ワッフルにアイスクリームを乗せて食べたことから「ワッフルコーン」が開発されているので、相性は言うまでもなく、ジェラートと一緒に食べて楽しんでもらいたいなと思っています。

商品を作るときにも、味だけでなく色々な角度から研究されていそうですね。味も空間も妥協しないから、こんなに美味しくて、素敵なお店になるんですね。

おばあちゃんと楽しむ、季節の手仕事・庭仕事

移住されてからは1年以上経っていますが、暮らしについてはどう感じられていますか?

子供達は想像以上に好奇心が旺盛でエネルギッシュです。自然があり、空間にゆとりがあり、親族が近くにいて子育てできる安心感があります。

お子さんがのびのび遊べるようになったんですね。あとは何か、お子さんの変化は感じますか?

よくお手伝いするようになったと思います。週末は、おばあちゃんに子供達を見てもらうことが多いのですが、種蒔きをして収穫したり、山菜を採ったり、栗を拾ったり、落ち葉を集めたり、雪かきをしたり。おばあちゃんと一緒におうちの周りの仕事を楽しそうにしています。自然体験が大人になって生きてくることもあるのかなと思います。

日和さんもこうして戻ってこられましたしね。ご自身がUターンして気づいたことなどはありますか?

生活に必要なものは揃っているなって思いました。都会ほど凝ったものはないかもしれないけど、じゅうぶん。シンプルで豊かだなって思います。

お仕事以外の時間で楽しみというと?

子供と遊んであげたいですね。時間があれば、子どもたちを連れて温泉に行ったりします。あとは、定休日以外でも仕入れに行ったりしているんですが、旬の果物や野菜を直売所で見たり、市場に行ってお話しするのも楽しいですね。

仕入先はどうやって決めているんですか?

取り扱いたい農産物について調べて訪ねたり、ご紹介してもらったりですね。南部町は果樹が豊富でよく通っています。直接伺うことで造り手の想いや苦労だったり、その土地の特性や歴史について知り、美味しい食材をいろんな人に知ってもらって食べてもらいたいなという気持ちも高まりました。あとは、青森で手に入らない食材はあるので、日本各地の美味しい季節商品も取り入れていきたいと思っています。各地の農家さんともコンタクトを取り、その地域の果実や品種について勉強させてもらっていますが、なかなか伺えないので、いつかご挨拶しに行きたいですね。

ありがとうございます。では最後に「十和田はこうしたらもっと良くなる」のような希望があれば、お聞かせください。

そうですね。観光客がもうちょっと増えるような街になるといいなと思ったりします。観光客が楽しめる場所って、地元の人も楽しいと思うんです。公共機関の改善や観光向けのサービスが増えれば雇用や職種も増えますし、観光客を増やすには?と考えていくと、意外と住みやすさや働きやすさに繋がる気がします。

なるほど。ありがとうございます。お店に関して「こうしたい」もありますよね、きっと。

テイクアウトや、お土産用の商品を作ることや、色々ありますね。余暇の思い出に季節を感じながらジェラートを食べてもらいたいという想いがあるので、まずはこの場所で、作りたての美味しいジェラートを提供できるよう、続けていきたいと思っています。

本当に美味しかったです。ありがとうございました。

ありがとうございました。

今回の取材場所

KIBIジェラート

〒034-0082 青森県十和田市西二番町8−48

KIBIジェラート 公式Instagram
https://www.instagram.com/kibi_gelato/
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