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“KIBI”是、好日。
しあわせ運ぶジェラテリアのつくりかた【後編】

十和田市現代美術館から徒歩3分。十和田市にまた1つ、魅力的なスポットが増えました!緑豊かな公園を望むジェラテリア(ジェラートのお店)の名前は、「KIBI(キビ)ジェラート」。イタリアの伝統的な製法で、県産食材を取り入れた季節のジェラートを提供しています。メニューは週替わりで常時8種類。美味しいジェラートと居心地の良い空間を目当てに、オープン直後から多くの人でにぎわっています。
今回の語ログは、家族で十和田市に移住し、念願のお店をオープンした夫妻の移住&起業のお話をお届け。十和田市にIターンした拓路さんが語る後編です。

  • くじ ひろみち
    久慈 拓路

    兵庫県生まれ、北海道札幌市育ち。高校卒業後に上京し、憧れのヘアメイクアップアーティストに弟子入り。アシスタントを務めながら美容師資格を取得し、独立後は雑誌・WEB・映像作品などで出演者のヘアメイクを担当。日和さんとは2012年に結婚。2023年7月、家族で十和田市に移住。

アイデア豊富なイノベーター妻×ロジカル思考と行動力で実現するリアリスト夫

移住するまでは東京でヘアメイクのお仕事をされていたんですよね。素朴な疑問なんですが、ヘアメイクのお仕事ってどうやって就くものなんですか?

僕の場合、その方のもとで修業したいと思ったヘアメイクの方が東京にいらしたので、その方の事務所に先に連絡をして、スケジュールを教えてもらい、現場を先回りして、「弟子にしてください!」「給料は要りませんので!」みたいな感じです。今じゃありえないんですけど(笑)。

情熱と行動力がすごい!

そのままその方に弟子入りして、ヘアメイクを始めてから、20年以上続けましたね。通信で美容師の免許も取って、知り合いのお店を手伝ったりも少しはしていましたが、撮影現場のヘアメイクがメインです。始めた頃は雑誌がまだ全盛期で雑誌の現場もやったし、映画、CM、WEB、何でもやりました。広告関連の仕事が多かったですね。

広告や映像の華やかな世界で活躍してこられたわけですが、そんな中で日和さんからUターンしてお店を開きたいという話があって、どう思われましたか?

全然いいよと思いました。妻の中で土地勘っていうのもあると思うんで。イメージがあるなら、それを具現化するために、できることを詰めていけば、おのずとゴールに辿り着けるでしょうと。

2020年くらいからご準備を始められたと日和さんにお聞きしました。はじめは「本当に美味しいアイスってあるの?」から始まり、都内のアイスクリームショップを色々食べ歩きされたとか。

はい、本当にたくさん回りました。それに加えて、僕は仕事でさまざまなジャンルの最先端のところに居る方々とご一緒していたので、色々美味しいご飯を食べさせてもらう機会も多くて。食材の組み合わせや色の掛け合わせで「これは面白いな」とかっていうものも蓄積されていたんだと思います。ジェラートのことはもちろんですけど、そういう経験も生きたかもしれないですね。

僕はフリーランスで仕事してたっていうこともあって、「仕事はできて当たり前、その他に何か特徴がないと選ばれない」っていうのは実感していたんです。それがジェラート屋でも同じで、色々なお店に行っても美味しいのは当たり前であって、そこからの“プラスアルファ”の何かがないといけないと感じてました。人が生きていくのに絶対に必要不可欠な業態ではないからこそ、余計にそうですよね。

色々なご経験を踏まえて、ご自分たちのお店のコンセプトを考えていったんですね。

コンセプトは「これ」と言い切るのは難しくて…。その辺は妻の得意分野なので、ブランディングはおまかせしています。僕の役割は、妻が描いたイメージを具現化するために行動していくことだと思ってやってきました。

日和さんが企画やブランディングを、拓路さんはレシピ作りから実際にジェラートを作る工程を、と、ご夫婦で役割分担しているんですね。

SNSもそうですけど、発信するのは妻の得意分野ですので。ただ僕自身も、十和田でやるなら、地元の食の豊かさが“プラスアルファ”の部分につながるかもしれないとは思いました。果樹も野菜も米も、美味しい食材がたくさんあるじゃないですか。あとはお店の場所が美術館の近くなので、市外・県外から来る方に地元の食を紹介する役割が果たせるかなと。当店があることで美術館にもお客様が増えるような、来る方と美術館と両方のプラスになる存在になれるといいな、とは考えましたね。

シンプルだからこそ奥深い、ジェラート作り

あと僕らの役割分担で言うと、ジェラートの作り方ってシンプルで、冷却しながら、撹拌して混ぜながら固めていくっていうことになるんですけど、うちはクラシックな作り方をしているので、この工程がけっこうな力仕事なんですよ。だから僕がやっているのもあるんです。機械が回転して、1秒ごとにジェラートの様子が変わっていくのを見ると幸せで。そういう意味では、メイクの仕事をしているときと変わらないです。メイクでも刻々と状態が変化していく中で、ベストなタイミングを見極めるのが好きだったんです。東京でもここでも好きなことをやって、ずっとハッピーかもしれません(笑)。

特にジェラートは、僕としては、すごい科学的な要素が強いのが面白いと思います。

これもまた素朴な疑問で恐縮ですが、アイスとジェラートは何が違うんですか?

ざっくり言うと、同じ。アイスのイタリア語がジェラート、と言うこともできますね。ただ、日本では乳脂肪分がどのくらい入っているかで「ラクトアイス」「アイスクリーム」とか分類があるんですが、ジェラートには無い。フルーツ、野菜など、どんな食材を使っても、凍っているものは全部ジェラートです。だからジェラートって、食材の配合が大切なんです。本当に数グラムの差、数秒の差で味が変わります。食材同士の配合具合もそうですし、例えば同じ苺でも、鮮度が違うとまた違う味わい、食感になったりします。だからレシピさえあれば、その通りの味が作れるかと言えば、そうじゃない。

品質を安定させるのが難しいんですね。

レシピはすでに100種類以上あるので、そこを目安として、甘さや食感などを調整します。

イタリアにも行かれたそうですが、イタリア直伝のレシピもありますか?

作り方やレシピも習いましたが、向こうと日本では食材が違うので、こちらにあるものに置き換えたりしています。果物とかは甘くて美味しいんだけど、アイスにすると青臭さが出てくることもありますし。試行錯誤してますね。

フレッシュなものを扱うっていうのは難しいですけど、同じ人間が2人いないように、やっぱり同じ食材はないので、それに合わせてバランスを取るだけです。特別なことをしてるわけではない。品質が同じになるように、当たり前のことやってるだけです。

不安も不満もゼロ。これから増えていく経験を楽しみに

お話をうかがっていると、仕事自体は変わったけど、お仕事に向かう姿勢は、実はそんなに変わってないって感じがしますね。

本当、そうですね。僕は「昔は良かった」とか全く思わない。「これをやる」って決めたら、これが楽しい、楽しくなるように仕事をするだけなので。だから、辛いと思ったこともないし、東京に戻りたいとも思わないです。今はオープンして、ホッとしているくらいかな。

2024年の8月15日にオープンして約3ヶ月ですが、やってみていかがですか?

店舗を作ってもらったり、準備に協力していただいた人たちに感謝です。でも今はもう必死にやるしかないので、思うことは特にはないですね。

では生活に関してはいかがでしょうか? 移住されてからは1年以上が経っているわけですが、十和田のまちや人への印象や感想というのは?

何だろう? 知り合いも全然いなかったですけど、選んでここにいるから、別に不都合は何もないですね。もうこっちに来ているから、ここにいるっていうだけの考え方ですよ。ちょっと言葉にするのは難しいのかもしれないんですけど…。例えばヘアメイクをやるって決めたときも、師事したい方が東京にいたから東京に行っただけなので、他に何もないんですよ。

そうですよね。ごく自然な流れとして上京のお話をうかがってしまいましたが、夢が叶う保証もないわけですし、ネガティブに考え始めたら不安が尽きないはずですよね。

そうなんですよ。僕はそういうの全然なくて。だから今回の移住に関しても、不満とか全然ない。やることは決まっているので。…ごめんなさい、記事にしづらいですよね(笑)。

いえいえ(笑)。潔い生き方で、かっこいいです。

一人がわりと好きなのもあるかもしれませんね。前職では海外にも、国内の地方にも色々行かせてもらいましたけど、どこに行っても僕は1人で街に出ちゃうんです。せっかく来たんだから、その街の人と話すほうが楽しい。それで言うと、移住して良かったのは、色々な人と新しく知り合ったことですね。生活を変えて無くなったものもあるけど、今後増えていく経験のほうが多いので。楽しみでしかないです、今。

楽しみのほうが大きいんですね。

家族として、みんなが心の余裕を持って暮らせるか。そのために、この店をちゃんと続けられるかどうかということはありますけどね。親と子どもとの関係は、どこにいてもあんまり変わらない気がするんですよ。ただ、この自然とか周囲の環境っていうものは、どこに住むかで変わるから。ちっちゃいうちに自然に触れさせてあげられたのは良かったと思います。

自然とふれあい季節を感じる経験が、人生の選択肢を増やしてくれる

移住前に2人目のお子さんが生まれたとお聞きしました。

そうですね。2人になって。僕が少しずつ周囲の人に移住のことを伝えながら仕事を減らしていくタイミングだったので、妻が大変だったと思います。

そうすると下のお子さんはまだ小さいでしょうけど、移住して、お子さんの変化を感じたことはありますか?

上の子も、もう今の環境が当たり前だと思うんですね。コミュニケーション取るのがすごい上手な子で、誰とでも仲良くなっちゃいますし、体を動かすのも好きだし。すぐ馴染んでくれるだろうと何ら心配せずにこっちに来て、やっぱりすぐ慣れました。今小学1年生です。下の子もね、今やっと自分で喋ったり、そういう時期です。

季節のもの、ってあるじゃないですか。例えば、畑でトマトを取るとか、柿を取るとか。そういうのって子どもの頃に経験したら、覚えてますよね。子どもの頃のことで覚えてるのって、本当に楽しかったか、本当に痛かったか、そういう本当に心が動いた経験。これって子供にとって、人生を豊かにしていくための経験値になる。選択肢が広がるんです。都会で最先端を知るのもいいかもしれないし、地方で自然に触れること、どっちでもいいんだと思うんですけど。最終的にどういうのが好きかとかは、子どもが選ぶから。今回の移住は、子どものためにも良い選択だったんじゃないかと思っています。

お店のことなど、きちっと準備と計画はしているけれど、移住に対しての気負いはなかった、という感じがしますね。環境の変化もご家族で楽しんでいる。

うん、そうですね。仕事は特に、やっぱりきちんと計画しないと、感覚で走っちゃったら何もうまくいかないのは分かってる。でも、緻密に計画してる上で、最後は感覚、みたいなところもある。ヘアメイクでもやっぱり、地道な計算が絶対的に必要で、現場にいる人たちのそれぞれの求めるものを理解して、計算した上でうまくまとめなきゃいけないんですけど。この土地でジェラートやるのでも、同じだと思っています。お客さまがどういうものを求めているのか、魅力を感じていただくにはどういう商品がいいか。それをふまえた上でプラスアルファの新しいものを提供することが出来れば、印象に残る店になるのではないか。

なるほど。美術館に来る観光客の方は、きっと青森らしさを求めていますよね。でも、地元の方も来るわけですよね。こちらのジェラートは地元の食材を使いつつ8種類のフレーバーが週替わりで用意されているから、初めて来た人も、常連さんも、いつ来ても発見がある。色々計算して、今のスタイルっていうことなんですね。そして美味しいのは当然として、ですよね。いただいたジェラート、本当に全部美味しかったです。

ありがとうございます。地元の方や美術館の方に対して私たちができることは何か…確かに色々な角度から考えていますね。

週替わり8種類は、作る側としては大変ですよね。

他にはなかなかないと思います。ただ、食材の中には保存が難しいものもあるので、鮮度よくいいものをって考えたときには、1週間はちょうどいいサイクルだったりもします。そういうリズムが今、できています。

最後に、お店のこと、生活のこと、今後について考えていることがありましたら教えてください。

どうでしょうね。その辺のイメージに関しては妻が得意なので。何かアイデアが出てきたら、実現するための方法を一緒に考えます。

それぞれの持ち味を生かして、補い合って進んでいく、お二人の関係が本当に素敵ですね。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

今回の取材場所

KIBIジェラート

〒034-0082 青森県十和田市西二番町8−48

KIBIジェラート 公式Instagram
https://www.instagram.com/kibi_gelato/
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