とわだを読む 日々の語LOG

TOWADA HIBI COLLECTION WEB MAGAZINE

BACK NUMBER

「一番」という名ののぼり旗は、「ようこそ」のサイン
 東北No.1を目標に掲げる設計事務所 ~後編~

働く人々の心を一つにする目印として“東北No.1”を掲げ、年齢・性別・経験を問わず多様な人材を採用している石川設計が、今回の語LOGの舞台です。後編では、移住支援を担う村上さんと、ベトナム出身で建築士を目指しながら設計業務に励むソンさんにお話を伺いました。迎える側と移り住む側、それぞれの視点から、仕事と暮らしのリアルを見つめます。

  • むらかみ・けんいち
    村上 憲一

    株式会社石川設計営業部 営業課長(取材当時)。岐阜県出身。北里大学への進学を機に十和田市に移住。同社に勤務し、採用と移住・定着支援を担当。県外からの移住者を迎え入れるための制度申請や生活の支援を担う。移住者の状況や思いを丁寧に汲み取りながら行政との連携を重ね、働きやすい環境づくりと新たな暮らしを後押ししている。

  • ヴ・ヒュン・ソン
    Vu Hyunh Son

    株式会社石川設計設計部 設計課主任(取材当時)。ベトナム最大の都市・ホーチミンで生まれ育つ。大学卒業後の2014年に来日。静岡県の日本語学校を経て福井県の大学に入学・卒業。福井県・東京都の建設会社で建設現場監督を経験し、2024年6月に石川設計に入社。妻とともに十和田市に移住した。設計担当として勤務しながら、建築士資格取得を目指す。趣味はロードバイク。

制度の申請から雪道の運転まで、会社ぐるみでサポート

石川設計さんでは日本全国から人材を採用し、入社に伴う移住社員の支援にも力を入れているそうですね。

はい。特に県外から移住してくる社員には、「移住・定住引越し支援金」や「移住支援金」などの制度申請をサポートしています。ただ、制度には細かい条件があるので、必ず市役所の担当者に確認してから動くようにしています。

簡単に「使えますよ」とは言わない、と。

そうですね。一番ショックを受けるのは当事者ですから。申請がスムーズにいかないこともあります。たとえばソンさんのときは、申請時点で永住権がまだ取れていなかったんです。

申請の時点ですでに彼は10年近く日本に住んでいたので、まさか対象外になるとは私たちも思っていなくて。実は、移住支援金の申請書の条件として「永住者であること」と小さく書かれていて、それを見落としていたんです。ちゃんと確認したつもりでしたが、後から「しまった」と…。市の担当者に相談したところ、「永住権を取得したあとで改めて出し直せば大丈夫」と丁寧に説明してくれて。ソンさんがすぐに入国管理局での申請を進めてくれて、取得までに8か月ほどかかりましたが、その後はスムーズに再申請できました。

それは予想外ですね。

はい。制度って「知ってるつもり」になりやすいから、確認を怠らないのが一番大事だと改めて思いました。

とはいえ、制度の内容って細かくて分かりづらいことも多いんですよね。だからこそ、市の職員さんと日頃から顔の見える関係をつくっておけるのは、本当に大きいです。ソンさんのケースでも、制度の運用について一緒に考えてくれる姿勢が本当にありがたかったです。市の協力がなければ、ここまでスムーズには進まなかったと思います。

会社として本人と一緒に動くというのが、すごいですね。

はい。本人に任せきりにするのではなく、申請書類の記入を手伝ったり、市役所に同行したりします。文化や言葉の違いがある場合は特に、「分からなかったら聞ける」「一緒にやってくれる」と感じてもらえるだけで、だいぶ安心感が違うと思います。これまで、関東だと東京や神奈川、遠くは九州に住まれていた方に対しても、入社に際して補助制度の申請手続きをお手伝いしました。

申請以外に生活面のサポートもなさっているとうかがいました。

ソンさんの場合は、免許を持っていなかったので、自動車学校の手続きや通学スケジュールもサポートしました。雪道の運転が不安な時期には、会社の車を貸して通勤してもらったこともあります。東北は車がないと暮らしにくいですからね。 あと、「思ってたより食事がしょっぱい」と言われたこともあって(笑)、そんなときは一緒にスーパーに行って、地元の食材や調味料を紹介しました。

そこまで…!

もちろん、こうした支援はソンさんだけでなく、日本人でも必要に応じて同じようにサポートしますよ。一人で抱え込まなくて済むように、会社としてできることはやりたいと思っています。 移住者にとって、制度は“きっかけ”にすぎません。本当に大事なのは「このまちで暮らしていけそう」と思えるかどうか。そのために私たちができることは、全部やるつもりです。

なるほど。あくまで制度は“補助”であって、それがあるから移住するという話ではないんですね。

そうです。「制度があるから来て」ではなく、「来たいと思った人に制度がある」。その順番を間違えないようにしたいんです。本人がこのまちで働きたい、暮らしたいと思えるようにサポートすることが、私たちの役割だと考えています。

「自然のある場所で、設計の仕事がしたい」十和田で叶えた夢の暮らし

ソンさんは、どうして石川設計に?

以前は建設現場で監督をしていました。でも本当は、設計の仕事がしたくて。ちょうど転職を考えていたときに、ネットで石川設計を見つけました。自然がある場所に住みながら設計の仕事がしたいと考えていたので、転職サイトで石川設計の情報を見たときに、良いなと思いました。最初は村上さんとメールでやりとりをして、それから社長とお話ししました。ただ、青森県が日本のどこにあるのかは知らなかったのですが…。

自然が豊かな街は、全国各地にありますものね。

でも、インターネットで十和田市の情報を調べたら、特に自然が素晴らしかったです。きれいな場所だなと思って。

自然の美しさに惹かれたんですね。移住の際は補助制度を利用されたとか。

引っ越しでお金がかかりましたが、補助金が出てとても助かりました。制度の申請の手続きをするために社長から休暇をいただいたり、総務の方が書類を作成してくださったり、村上さんが車で連れて行ってくださったりしました。とても感謝しています。

会社ぐるみのサポートがあったんですね。移住して1年ほどになりますが、十和田での生活はどうですか?

過ごしやすいですね。東京に住んでいた頃は電車通勤が大変だったので、ロードバイクを買って乗り始めたのですが、十和田に来てからは、ますます乗るのが楽しいです。奥入瀬渓流が好きなので、家からロードバイクで行きます。

それはすごい! 何キロぐらい走るんですか?

そんなに遠くないですよ。片道20キロぐらいでしょうか。今の目標は、青森県をロードバイクで一周することですね。

自然を満喫していらっしゃるのが伝わってきます。逆に、生活で困ったことや大変なことは?

雪道の運転が怖かったです(笑)。でも冬は楽しいこともあって、村上さんが私たち夫婦をスキー場に連れて行ってくださいました。2か月ぐらい毎週のように行ったので、妻も私も上手になりましたよ。 それから、やっぱり都会に比べて、夜遅くまでやっているお店が少ないですね。でも、その分、自然の中で過ごす時間が増えて、生活のリズムは整ったと思います。 あとは…地元の方の言葉がちょっと、東京とは違うことでしょうか。今はまだ、地元の方と話す機会が少ないのですが、少しずつ慣れていきたいです。

大切なのは企業の“中身”。移住支援制度はきっかけ

次に、現在のお仕事について教えてください。

設計の図面を作成しています。図面を描くのが好きなんですよ。まだ建築士の資格はありませんが、現場監督の経験があるので、それを設計にも活かせる場面があります。今は試験勉強を続けていて、今年こそ合格したいです。

職場の雰囲気はどうですか?

皆さん、優しいですね。色々なことを教えていただいて、とても温かい職場です。設計部と営業部など、会社の中で部屋が分かれていますが、会社の皆さんが仲が良くて、バーベキューをすることもあります。

仲が良いといえば…。休日にソンさんと奥さんと買い物や何かに出かけていると、「お父さんですか?」と何度も聞かれるんですよ。最初は事情を話したりもしていましたが、最近は「はい、そうです」って答えるようにしています。一緒にいるうちに、似てきたのかな(笑)。

まさに“十和田のお父さん”なんですね(笑)。

そう思ってくれるのは嬉しいですよ。私自身、ずっと昔のこととはいえ十和田に移住してきた身ですし、移住者の皆さんが頼ってくれることが素直にありがたいです。

最後にソンさん、将来的な目標はありますか?

はい。まずは建築士の資格を取ること。そして、この地域で必要とされる建物をつくれる人になりたいです。

頼もしいですね。では村上さん、最後に、石川設計が大切にしている移住支援のスタンスについて改めて聞かせてください。

よく「制度があることを売りにして、移住者に入社してもらえればいい」というふうに捉えられがちなんですけど、私たちは逆だと思っています。「このまちで暮らしたい」「ここで働きたい」と思ってくれた人の背中を、制度が押すもの。 日本の方でも海外の方でも、「うちの会社で一緒にやっていこう」という気持ちがまずあって、その上で制度がある。順番を間違えたくないんですよね。

確かに、制度だけでは人は動きませんよね。

ええ。ですから結局、企業の規模や業種に関わらず、やはり一番大切なのは“中身”じゃないでしょうか。どんな人が、どういうビジョンのもとで、どんなふうに働いているのか。 特に私の立場では、制度の内容の説明やサポートの前に、その人とちゃんと向き合うことが大事だと思っています。「この人の暮らしが十和田で成り立つか」「安心して働けるか」。そこを考えるのが、私たちの役割です。

今回の取材場所

株式会社石川設計

〒034-0094 青森県十和田市西二十二番町2-41

株式会社石川設計
https://www.ishikawasekkei.co.jp/
PAGE TOP