結婚を機に夫の故郷である十和田市に移住した竹ケ原香織さんは、2022年にボードゲーム体験会『親子でゲーム会』をスタート。
翌23年には十和田市と共催でおさがり交換会『どうぞの服』も始めました。
『子育てをもっと楽しく』をテーマに、「まず大人が楽しむ姿を見せたい」と活動の場を広げる竹ケ原さんが考える、大人が地域の中で楽しくいられるために必要なものとは?
前後編でお届けします。
たけがはら かおり
竹ケ原 香織
北海道小樽市生まれ。酪農学園大学農学部食品科学科(現:食と健康学類)卒業。2010年、結婚を機に十和田市に移住。2020年に結婚前から勤めていたアパレル会社を退職し、2022年「親子でゲーム会」を始動。2023年には十和田市と共催で子ども服のおさがり交換会「どうぞの服」もスタート。NPO法人芸術と遊び創造協会認定おもちゃコンサルタント、同法人認定アクティビティーインストラクター。
●親子でゲーム会in十和田
https://www.instagram.com/oyakodegamekai/
ご結婚を機にということでしたが、十和田市に移住したのはいつ頃ですか?
2010年です。結婚を機に引っ越す予定で、会社にも転勤の依頼はしていたんですけど、話を進めている途中に妊娠していることが分かって、そのまま産休・育休を取りながら転勤させてもらうということになりました。十和田市に来て最初はアパートを借りて、契約更新のタイミングで夫の実家に入るっていう感じで、トントンと進んでいきました。
お仕事はどんなことをされていたんですか?
2020年3月までアパレル店 で働いていました。いつか農業をやりたいな、でも、仕事も楽しいし、いつそこを切り替えようかなって思っていました。色々と考えていた時に農業の本を読んで、「こういう考え方だったら、子育てと農業を両立させる生活ができるかな」っていう風に思えたんです。アパレルの仕事的にも、ちょうど人員が足りていて、私がいなくても大丈夫だろうと。夫もサラリーマンなので、今なら収入が多少減っても一旦扶養に入って、農業を学びながらやっていけるかなと考えていました。ちょうどコロナ禍の時期でもあったのですが、今後の人生の計画を練り直す大切な期間になりました。
もともと農業に興味があったんですね。
そうですね。大学時代、北海道の江別市にある酪農学園大学で学んでいました。別に酪農を勉強したいわけではなかったんですけど、アルバイトで農家さんに行っていたんです。個人経営の小さな農家さんだったので、朝からトマトの収穫をしてパック詰めをして、ひたすらラジオを聞きながら1人でやるんです。昼になったらお弁当を食べて、午後も働き、その間にだんだん陽が沈んできて…。そんな景色を感じて音楽を聴きながら仕事をする。自然の中での暮らし方っていいなって思いました。お土産に穫れたての枝豆をもらって自分で茹でて食べた時に、これまで食べていたものと全然違った、こういう美味しいものが食べられるんだって思ったら、農業いいな!って感じたんです。
農業はまず土地がないとできないと思うんですが、ご主人のお家が農家なんですか?
兼業農家なので田んぼとか畑とかはあって、でも兼業だから農家一本ではやっていけないくらいの規模ですね。
今日はゲーム会のお話をおうかがいするつもりで来ているのですが、会の活動よりも農業の方を先に始められたんですか?
会社を辞めてから、まず何もしていない期間が1年ぐらいありました。農業法人とかで働きながら農業を勉強するか、最初から義父に習いながらやるかとか、色々考えたかったんです。その間にパソコンをちょっと勉強したりとか、七戸町の営農大学校に通って、月に2回講座を受けて勉強したり、トラクターの免許を取ったり。充電しながら整理するみたいな期間ですね。今も農業は、ゆるく、ゆるく、ゆるく、義父を手伝いながらやっています。
どんなものを作っているんですか?
今はほうれん草と春菊を、これもゆる~く週に1回とか出荷しているんです。あとはお米や大豆など色々なものを育てています。農業収入も、義父はそんなに深く考えてないので、それをどうやって収益化していこうかなっていうのも、私が勝手に企んでいるところです(笑)。将来的には、夫が仕事を辞めて2人でやるとなった時に、2人とも0からのスタートじゃなくって、私がある程度基盤を作っていたらいいのかなって考えています。老後も農業収入を得ながら、元気に暮らしていけたらなと思っています。
しっかり計画をしていますね。
2人の人生の計画を段階的にずらしてお互いに補っていけば、 元気な老後が迎えられるかなっていう気がしています。私の収入としては今、農業関連の事務所で事務のお仕事をしていますし。
加工品も作ったりしているんですか?
それは、まだこれからです。どうしたらいいかなと考えて、十和田市のとわだ産品販売戦略課がやっているセミナーで冨田さんに会って、その講座の3回目で絵本とサンポの関口さんが入ってきて…みたいな感じで、そこから人間関係が広がってきました。
冨田さんのインタビュー内容はこちら
https://towada-iju.com/collection/webmagazine/040
私たちが最初に「親子でゲーム会」のことを知ったのは絵本とサンポさんを取材したときだったんですが、そこでつながったんですね。
絵本とサンポ 関口 綾さんのインタビュー内容はこちら
https://towada-iju.com/collection/webmagazine/035
セミナーで関口さんに会った時、ゲームも絵本もあって、お茶ができてまったりできる場所を作りたいなというのは、ぼんやり思っていて、その話をしたと思います。活動の話はその時はまだなくて、ただ、やりたいっていう気持ちがあって。そんな時に「公共施設を使った場作り」というテーマのセミナーに参加して「プレイスメイキング」って考え方を知ったんです。十和田には素敵な公共施設がたくさんあるので、有効活用できたら動き出せるなって思いました。その相談を冨田さんや関口さんにしたり、場所を借りられるかなと思って、市役所に行ったりもしました。
そして、親子でゲーム会を開催したんですね。初めて開いたのはいつですか?
2022年の6月にカードゲームやボードゲームの体験会をスタートして、今は子供服のおさがり・交換会もやっています。むしろそっちが今、利用者が多いかな。たまたま十和田の子ども食堂さんがテレビで紹介されていた時に“衣食住”の“食”は子ども食堂さんがやっているけど、“衣”がまだないなと思っていました。前職のアパレル会社で、古着を回収して海外に送っていたんです。メーカーで引き取るものはそこに出して、それ以外のものは市のリサイクルボックスに入れて。友だちとおさがりを交換することもあったけど、好みも性別の違いもあるし、もらってそのままリサイクルへ…ということも正直ありました。だったら、ご近所同士で欲しいお下がりを選べる仕組みがあれば服をもっと有効に活用できる。リサイクルにかかる輸送コストを減らしたり、ごみの減量にも貢献できるかなって考えました。
十和田市でもリサイクルの取り組みをしているんですね。
資源を有効活用するプロジェクトですね。おさがり会は市と共同で開催しています。市では今、子ども・大人関係なく服を集めているんですけど、共同で開催する時は子供服専用のボックスを作り、皆さんに持ち帰ってもらう場所を提供する。絵本とサンポさんとBook&Space 旅空間さんと、げんき接骨院さんに併設されている遊空間つむじで、リサイクルに出したい方は店主に預けてもらい、おさがりを回収しています。ゲーム会とおさがり会を兼ねて、不定期ですが大体2か月に1回ぐらいのペースでやっています。
親子でゲーム会
おさがり交換会
ゲーム会の活動では、オリジナルのカードゲームを開発したというお話も聞いています。
もともと「レシピ」というカードゲームがあって、その青森版の制作協力という形で参加させてもらいました。
企画・販売 (株)ホッパーエンターテイメント(京都府)
カードに色々な食材が書いてありますね。
配られたメニューカードに従って自分のキッチンに食材を揃えていくと、地元の名物料理ができあがるというものです。北海道版や沖縄版もあって、親子でゲーム会をスタートするときも、大人も子どもも同じルールで遊べるゲームとしてこの「レシピ」を体験しようって始めたんですよ。やっているうちにこのゲームの青森版があってもよくない?と思い始めて、ゲームのメーカーに問い合わせて青森版を作ることになったんです。
小さな子ならルール通りじゃなくても、食材を集めて「ぐるぐるしよう」ってかき混ぜて遊ぶだけでも楽しいですよ。
絵を見れば感覚的に分かりますもんね。
ひらがなや言葉を覚えるのにもいいし、食材についてあらためて学ぶことも出来ます。この間は東北町の交流会に呼んでもらったんですけど、そこでは50代60代ぐらいのお姉様たちと一緒に遊びました。郷土料理の1つのメニューでも「うちこれ使うよ」「うちはこうだよ」とか言って、盛り上がりました!
いいですね。
うちの子どもの小学校にもお願いして、ゲーム制作の一部を授業時間にやらせてもらいました。たまたまその前に、参観日でどこの地域に移住したいかというのをプレゼンをする社会の授業があったんです。食は地域の特色が出るところでもあるので、せっかくだから青森の料理を調べて、どういう具材が使われているとか、青森の中のどこの地域のものなのかを調べてグループで発表したり、その中から出たメニューの候補をウェブ上でアンケートをとったりしながら、青森版のメニューを決めました。
レシピ青森版の制作過程に子どもたちが関わったということなんですね。リリースはいつでしたか?
2023年の4月です。メーカーに連絡してから中身の案を最終決定するまでは5か月ぐらいだったんですけど、そこから細かい調整をして、最終的に決まったのはさらに3か月後ぐらい。ゲーム会と並行しながら制作もしていた感じです。
郷土料理って地域を知るきっかけになりますよね。
青森以外の人もゲームをやることで、青森の特色を知ってもらえるといいですね。
北海道、沖縄のほかに金沢、福井、ハワイ版もあるんですね。
金沢は地域の幼稚園が企画したそうです。福井は私と同じように「おもちゃコンサルタント」の方が制作協力で関わっています。
「おもちゃコンサルタント」はどのようなものですか?
おもちゃの遊びとか、その背景にある文化みたいなものを勉強していく講座で、おもちゃの遊び方も1つじゃないということも学びました。私もそうでしたが、おもちゃって知育目的で取り入れられるパターンも多いかなと思うんですよ。だけど、そうじゃなくて“楽しむ”ことから始めようよ、ということも大切なんです。おもちゃは子供が初めて出会うアートだっていう捉え方も聞いて、そうだよなって思いました。握るとか捻るとか、生活に必要な動作にむすびつく行為でもあるので、目的を大人が決めたりせずに、本人がちゃんと“遊ぶ”ことができたらいいのかなと。でも、そもそも…
そもそも?
私が好きなんですよね、遊ぶことが。で、大人が楽しいだけでもなく、子どもだけでもなくて、一緒に楽しもうよっていうことを広めたいなっていうのもあって。親子でゲーム会も「子育てをもっと楽しく」をテーマにしているんです。子育てが楽しくない親に育てられると、その子どもも子育てが楽しくないと思うようになってしまうんじゃないかな…とも思うし。同じ年代のお子さんがいる人同士だったら、そこでちょっとこう話したりとかっていうこともできるので、そういう場にもなればいいな。
おもちゃを揃えるのは大変ではないですか?
おもちゃコンサルタントの資格を取得してから、東京おもちゃ美術館から無償レンタルしているものもありますし、市の助成金も活用しています。
参加者の年齢はどうなっていますか?
ルールのあるゲームは対象年齢が一応あるのと、細かいパーツがあるおもちゃは誤飲が心配なのでエリアを分けたりしますけど、参加者自体の年齢は色々です。うちの夫も遊んでいました(笑)。小学校高学年の子は小さい子と遊んであげていたり、ゲームも自分で考えて新しいルールで遊んでもいいんです。自由にできるのが遊びだと思うので、そういう遊びの体験を小さなころから積み重ねて、親も一緒になって体験して成長する過程が見られるのがいいのかなと思います。負けたら泣いて怒るとか、そういうのも成長の一つのきっかけになる。子育て支援センターでも何回かやらせてもらいました。
あと私、「アクティビティインストラクター」っていう資格を取ったんですけど、それは高齢者向けの施設で行う、レクリエーションに役立つような感じのもので。「小規模多機能ホームサテライト おむすび」という図書館と駄菓子屋がくっついた施設で高齢者の方と子どもたちが一緒に、おもちゃのカエルを飛ばすゲームや、コマを回してポケットに玉を入れて点数を競うゲームなどで交流するイベントをしました。お年寄りの方って、子どものころに、お手玉とかけん玉とかコマとかやっていたから上手なんですよね。子どもたちが「すごい」って喜んでいました。
高齢になって社会での役割がちょっと減ってきていると感じる時に、そういう交流があるとすごくいいですね。
そういう幅広い世代の交流の場も、今後ちょっと増やしていけたらなって思います。ゲーム会には、南部町、八戸市、五戸町、六戸町、三沢市からも参加される方もいます。私も南部町で子どもの遊び場をやっている方とつながって、向こうに遊びの場を提供しに行ったり、この間は南部町から来てもらって、プレーパークをやってもらいました。
活動を通して人のつながりが広がっていますね。
今回の取材場所
Book&Space 旅空間