COLLECTERS INTERVIEW#006
牛小屋音楽会主催
坂本 雅利さん ・ 淑子さん
出身地:雅利さん 青森県三戸郡田子町生まれ
十和田市育ち(Uターン)
淑子さん 福島県田村郡小野町(Iターン)
移住年:2012年
<雅利さん>1951年生まれ。小学校から高校まで十和田市で過ごし、大学進学のため上京。国士舘大学卒業後、商社系スーパーマーケットに就職。27歳から神奈川県足柄上郡松田町在住。店長、本部人事部など管理職を歴任。2011年、60歳で退職。<淑子(よしこ)さん>1952年生まれ。大学時代に雅利さんと出会い結婚。小学校教諭を務め、2012年に退職。息子と娘はそれぞれ独立。
隣村と境を接する十和田市の端、赤伏地区。山と田園に囲まれ、坂本雅利さん、淑子(よしこ)さん夫妻の住まいがあります。
ふつうの住宅と違うのは、母屋と渡り廊下でつながった先にホールがあること。2人はここで、年2~3回のペースでコンサートを開いています。その名も「牛小屋音楽会」。もともと牛小屋だったことに由来しています。
「私は『どうにもならんからこの物件はやめよう』と思ったんだけど(笑)、妻は違ったみたいで」と坂本さんが言えば、「宝の山みたいに見えました」と淑子さんが微笑みます。
夫妻が移住したのは2012年、坂本さんが38年間勤めた会社を定年退職した翌年です。小学校教諭をしていた淑子さんも早期退職して踏み切りました。会社員時代は分刻みのスケジュールをこなす激務。リタイア後はスローライフを送りたいといくつかの移住候補地を回った結果、青春時代を過ごした十和田市を選びました。
「何よりも景色が最高」と淑子さん。山と田畑に囲まれた静かな環境が気に入っての移住でしたが、牛小屋が淑子さんの心をとらえたことも理由の1つ。リフォームによって牛小屋はコンサートホール兼練習スタジオに生まれ変わり、約3万枚におよぶ坂本さんのレコードコレクションやギター、淑子さんのピアノも納まりました。
移住最初の春からコンサートを開催。声楽や弾き語りなどバラエティ豊かな内容で、会場いっぱいに約150人が集まります。プログラムや歌詞カードは手書き。企画や演出も自分で。準備は大変ですが、心待ちにしている仲間のため、手は抜けません。
「どんな人でも共通項があれば仲良くなれる。音楽は人と人をつなぎます」
「大自然と市街地がバランスよく共存している。美しいですよね」というのが淑子さんの十和田の印象。四季折々の自然の変化を楽しんでいます。特に赤伏地区は天の川も見られるほど、空気が澄んでいるのがお気に入りだとか。赤伏の朝は早く、夏場は早朝4時半頃から近所の農家の田畑での仕事が始まります。自然とともに生きる人々に触れ、坂本さん夫婦のライフスタイルも変化しました。日中は坂本さんが楽器の練習や運動、淑子さんが家事に庭仕事とそれぞれの時間を過ごしますが、食卓はともに囲むのが2人の約束事です。
「農家のご夫婦が力を合わせて田んぼや畑の仕事をする姿は、まるでミレーの名画のように美しい。食事はなるべく手作りしたり、庭づくりをしたり。小さくてもいいから、自分の力でできることを丁寧にかたちにしていこうと思うようになりました」(淑子さん)
「70代、80代の先輩方が農機具を使いこなしていきいきと働く姿を見ると、元気をもらえます。定年したらのんびりしようと思っていたけど、老けこんでる場合じゃない、これからまだまだできることがある!ってね。同じレコードを聴いても新しい発見があって、物事を別の角度から見られるようになりました」(坂本さん)
2人ともに大切にしているのは、人付き合い。お互いの個性を尊重しながらじっくりと向き合えるのは、成熟した60代ならではです。
「十和田の人は粘り強いしどっしり構えていて“大地の人”という感じ。1人1人が自分を持っているから話していて楽しいんですよ」(淑子さん)
「私の場合は音楽ですが、移住は自分がやりたかったことを見つめ直し、再スタートするいい機会だと思います」と坂本さん。十和田に移り住んだことをきっかけに、坂本さんは高校時代以来となるギターを再開。淑子さんは地元・赤伏地区の長老に玉すだれを習い、一度は廃れてしまった伝統芸能を復活させました。
「80代のおばあちゃんが風呂敷から何やら取り出して、手作り衣装を着てカセットのスイッチをカチッ(笑)。なんだろうと思っていたら玉すだれを始めて、その楽しそうなこと!」 感動した淑子さんはすぐに弟子入り。家の裏から切り出した竹で“マイ玉すだれ”を作り、今では温泉施設やイベントで披露する腕前に。参加する仲間も増えました。
「待っていても何も始まらない。自分から動かなきゃ」 地域に溶け込むことが移住の第一歩。しかし坂本さん夫妻はそこからもう一歩踏み込みました。地域に眠っていた魅力を発掘した淑子さん。音楽という趣味を糸口に人間関係を広げる坂本さん。前向きなパワーが地域住民を動かし、地域の活力にまでつながっています。
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